自分たちが勝手に作り上げたイメージを少しでも外れると、「許せない」と叩く。ステレオタイプな物の見方を否定されると、途端に腹を立てるのです。被災者に対する支援者の態度が、こうした方向に進んでいる恐れがあります。

長い休みを使って
気を紛らわすことも必要

 私たちは、すべての被災者を同一視し、勝手なイメージを作り上げていないでしょうか。その像に基づいて「心は一つです」「東北がんばれ」と連呼する押しつけがましい支援になっていないでしょうか。

 被災地の多くの人は「ありがたい」と口にします。とはいえ「がんばれといっても、これ以上何をがんばればいいのかねぇ」とため息を漏らす人もいます。被災者にとってはピントの外れた支援にも、感謝の言葉を並べなければならないのが現状なのです。

 仙台に滞在しているとき、地元紙を読んでいたら、タレントのミッツ・マングローブさんの記事が載っていました。内容は、彼女(彼?)が最近出したCDのプロモーションでした。ミッツさんが寄せていたのは、こんなコメントだったと思います。

「昭和の歌謡曲でも聞いて、ひととき気を紛らせてください」

 震災が起こってからというもの、アーティストは「この曲で勇気を与えたい。元気を受け取ってほしい」と言うのが一般的になっています。ミッツさんの「気を紛らわしてください」という言い方は、とても誠実だと思いました。そして、気を紛らわすというのはとても大事なことだと改めて気づきました。

 現実から目を背けることは悪だと思われがちですが、ひと時の現実逃避は自分をいたわるために必要です。むしろ、現実を何とかするためにも気を紛らわす時間が必要だと私は思います。

 世間は、間もなくゴールデンウィークを迎えます。

 被災地の人たちはもちろんのこと、私たち被災地以外に住む人も、日々考え、情報に揺さぶられることで疲れ切っています。

 原発問題をはじめ、日本の社会のありようについては、超長期にわたって考え続けていかなければならない問題です。だからこそ、現実逃避をすることでこころを平静な状態に戻すべきだと思います。

 もちろん、震災のことを考え続ける人もいい。しかし、もしいまが辛い状況だと感じていたら、テレビやラジオやインターネットから離れて、震災のことを考えない日を作ってもいいと私は思います。

 ひとときだけでも気を紛らし、現実逃避をすることによって、再び現実に戻ったときにこれまでと違った向き合い方ができるようになっているかもしれません。