東日本大震災を境に、銀行業界で“地殻変動”が起ころうとしている。取引先の多くが被災した仙台市の七十七銀行が、公的資金注入に向けた検討に入ったからだ。その流れは被災地以外の地方銀行にまで拡大しようとしている。地殻の裂け目からは、ある悲願を達成したい金融当局の思惑が透けて見える。
「“しちしち”は想定外だった」。その一報を耳にした金融関係者は口を揃えた。
4月18日、預金量約5兆円を誇る東北最大の地方銀行、七十七銀行が公的資金注入を申請する検討に入ったと発表した。震災で融資先の多くが被災し、今後、不良債権の増加や自己資本比率の低下が見込まれるための措置という。
中小企業融資の円滑化を狙って、健全な金融機関に対して公的資金を予防注入する「金融機能強化法」を活用する。
ちょうど1週間前には、第2地銀の仙台銀行が強化法申請の検討を明らかにしていた。財務基盤の弱かった仙台銀はともかく、4%が健全性の目安となる自己資本比率が13%を超す東北地銀の雄の決断は、業界に衝撃を与えた。
だが、その背後には金融庁の影がちらついている。じつは、七十七銀による発表の数日前、金融担当大臣の自見庄三郎氏に加え、前金融担当大臣の亀井静香氏が仙台入りしていたのだ。
ある金融関係者は「七十七銀の財務内容なら、公的資金は必要ないはずで、他の地銀の申請を促すため、金融庁が圧力をかけたのだろう」と指摘する。その密使として金融行政に強い亀井氏らが動いたという読みだ。
被災した地銀に対して金融庁は、公的資金の一斉注入を模索しているとされる。5月の決算発表頃にも、すでに申請検討を明らかにした2行に加え、複数の地銀が申請の方針を打ち出すと見られる。
金融庁幹部は「甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県の地銀ではどこが申請してもおかしくない。もしなければ逆に説明を求めたいくらいだ」と打ち明ける。
被災地以外でも、関東の地銀が公的資金の注入を検討し始めたとの観測が浮上している。震災が地域金融機関を追い詰めていた。
経営基盤の悪化で
回り出す地銀再編の歯車
いったいどこまでが「一過性」なのか──。被災した地銀の査定担当者たちは悩んでいた。
4月上旬、金融庁検査局の職員は、被災地の3県をめぐって、地震対応で急きょ緩和された金融検査マニュアルの説明会を開いた。被災したすべての金融機関の担当者が詰めかけたが、彼らの関心はある判断基準に集中していた。