人生の折り返しで始めた自分への挑戦
当時、私が記憶術に対して持っていたイメージは、まるでトンチンカンなものでした。
見たものをそのまま写真のように記憶したり、初めて聞く音楽を一度で覚えたりすることができるのが記憶術なのだと思い込んでいたのです。
しかし実際はそうではなく、記憶したいものがあるとして、それを脳にとっていかに覚えやすい形に加工するかという作業が記憶術だということを初めて知ったのです。
理数系の私は、何事も理屈から入るタイプでした。ですから、既存の数多くの記憶術と近年の脳科学に関する研究からわかった脳の仕組みを照らし合わせて納得できるものだけを試していき、取捨選択して勉強していったのです。
そのうち、塾に導入するという目的はどこかへ行ってしまい、いつの間にか興味は自分自身の記憶力アップに移っていったのでした。
なぜそんなに記憶術に夢中になっていったかというと、覚える方法が簡単で面白かったからというのが正直なところです。その方法は後で詳しく説明しますが、簡単に言うと、元から持っている自分の脳の性質を使えばよいだけです。理数系で暗記に関してはまったく自信がなかった私がすらすら覚えられるほど、誰でも簡単にできるのが記憶術なのです。
もしかすると、これが本当にやりたかったことかもしれないという思いが徐々に頭の中で形になり始めた頃、偶然にも記憶力を競う大会があることを耳にしたのです。それは記憶力日本選手権大会といい、毎年1回行われる記憶の量を競う大会でした。
その頃にはある程度、記憶術を身につけていたものの、自分がどの程度のレベルなのかはまったく想像がつきませんでした。
しかし思い切って出場することに決めたのです。昔の自分であったら、その大会に申し込むことはなかったかもしれません。
人生の半ばともいえる年齢で、脳の力を試される記憶力日本選手権大会へのチャレンジを決めたのでした。