中国の台頭。人民元はドルを超えるか?
リーマン・ショックに始まる金融危機と、イラク戦争に始まる中東の泥沼に疲れ果てたアメリカ人は、イラク戦争終結を公約したオバマを大統領に選び、8年後には「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプを選びました。オバマとトランプは水と油のようですが、「アメリカは疲れた。世界の警察をやめる」という点では見事に一致しています。
中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を北京に設立すると発表し、欧州諸国が雪崩をうってこれに参加したのも、米ドルの支配に対する挑戦でした。人民元をIMFの準備通貨(SDR)に加えるという決定も、ドル支配が揺らいでいる表れでした。
ところが肝心の中国経済が傾いています。賃金の高騰は、他のアジア諸国との競争で不利益をもたらし、地方政府による需要を無視した公共投資でかさ上げされたGDPは、各地に人の住まないゴーストタウン(鬼城)を出現させただけでした。
一時は米ドル・ユーロに次ぐ第3の国際通貨になった人民元ですが、たちまち英ポンド・日本円より後退してしまいました。にぎにぎしく発足したAIIBは、開店休業状態です。これまで大量に買いつけていた米国債も、一転して売りに出しています。
ユーロは慢性的なギリシア危機と長引く移民問題で低迷を続け、ポンドはEU脱退後の先行き不透明感を抱えています。ドルに代わる基軸通貨は、まだないのです。
今、もっとも信頼されている通貨とは?
実は主要通貨でもっとも信任があるのは日本円なのです。日本政府が巨額の財政赤字を抱えているから「円は暴落する!」と、心配する人もいますが、円には暴落の兆しも見えません。
タイにしろ、韓国にしろ、財政赤字から通貨暴落を招いた国は、例外なく外国から資金を調達していました。日本は世界最大の債権国であり、借りる側ではなく貸す側です。日本国債の保有者は外国の銀行や投資家ではなく、日本の銀行や投資家なのです。
しかし日本には「世界の警察」をやる意思も能力もなく、日本円がドルに代わって基軸通貨になることはありません。軍事的に日米安保体制で「守ってもらっている」国の通貨は、米ドルを補完し、その安定を支える以上のことはできないのです。
金融と軍事は、表裏一体ということです。