焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」で生牛肉の「ユッケ」を食べた幼い子ども2人を含む4人が死亡した今回の集団食中毒事件では、チェーン店を展開する「フーズ・フォーラス」と納入元の食肉卸売業者「大和屋商店」とのあいだで、生食用に提供された肉なのかどうかを巡って、責任のなすりつけ合いのような醜悪な展開となっている。
当初は、菌が付着しやすい肉の外側を削るトリミングを怠ったフーズ・フォーラス側の一方的な過失であるかのような報道が続いていたが、その後の報道で、O111やO157などの腸管出血性大腸菌は牛の腸内に生息しているにもかかわらず、大和屋商店側も牛の内臓処理をした包丁やまな板で他の部位も加工していたことや、出荷する肉をユッケとして販売するよう勧めるメールを送っていたことなどが明らかになっている。
この一連の報道を見る限り、単なる業務上の過失というより、いずれの事業者にも、被害者が病気になっても死亡しても仕方がないという「未必の故意」さえ感じる。今回の事件を起こした事業者は、消費者の信頼を裏切り、死に至らしめた行為に対して、厳しい処分を受けることは免れまい。
ちなみに、食品又は添加物の基準及び規格に関する食品衛生法第11条に違反した者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処される。加えて、食品衛生法は第6条でも「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いのあるもの」「(O111やO157などの腸管出血性大腸菌のような)病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なう恐れがあるもの」の製造、加工、調理、販売等を禁止しており、同条に違反した者は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処するとしている。つまり、第11条による規則がない場合でも、業者は食品衛生法の義務を免れないのである。
一方、「食の安全」に責任を持つべき厚生労働省の責任の重さはどうなのだろうか。生食用牛肉の厚労省基準を満たす肉が出荷・流通していないにもかかわらず、多数の飲食店で、この基準外の肉が生食のユッケとして提供されていることは、食の安全性を担当する行政庁として認識していた。5月10日の記者会見で、細川律夫厚労大臣は、行政指導にとどめ、罰則を持った法的規制を導入することを怠ったことの非を認め、陳謝している。