グーグルを変えた驚異のノウハウ「スプリント」
どちらのケースでも、日常業務やブレーンストーミングのワークショップよりずっと効率よく仕事ができた。どこがちがうのか?
一つめとして、集団ブレーンストーミングとはちがい、1人でアイデアを練る時間があった。でも時間がありあまっていたわけじゃない。締切に追われ、いやでも集中せざるを得なかった。普段やりがちなように細かく考えすぎたり、重要度の低い仕事に手を出す暇はなかった。
もう一つの重要な要素は、人だ。エンジニア、プロダクトマネジャー、デザイナーの全員が同じ部屋にそろい、それぞれが問題の担当部分にとりくみ、お互いの質問に進んで答えた。
これをふまえてワークショップのやり方を抜本的に変えることにした。こういった魔法の要素―個別の作業、プロトタイプ作成の時間、逃れられない締切―をワークショップに加えたらどうなるだろう? こうして開発したプロセスを、デザインの短距離走(スプリント)として、「スプリント」と名づけた。
スプリントを初めて行うとき、大まかなスケジュールを立てた。
1日を情報共有とアイデアのスケッチにあて、その後の4日間でプロトタイプをつくるのだ。このときもグーグルのチームは喜んで実験に協力してくれた。僕はChrome、グーグルサーチ、Gmailなどのプロジェクトでスプリントを指揮した。
結果はすごかった。
スプリントは効果があった。そこで生まれたアイデアはテストされ、構築、公開へと進み、何より実世界で成功することが多かった。スプリントのプロセスはチームからチームへ、オフィスからオフィスへと伝わり、グーグル中に拡散した。
この手法に興味をもったグーグルX〔革新的プロジェクトを扱うグーグルの研究機関〕のデザイナーが、アドセンス〔グーグルの広告サービス〕のチームでスプリントを指揮し、それを体験したグーグル社員がまた別の同僚に教えた。まもなく面識のない人たちからもスプリントの話を聞くようになった。
その間、いろんなまちがいもした。最初のスプリントは参加者が40人もいた。ばかばかしいほどの大人数で、スプリントは始まりもしないうちに脱線しかけた。また、アイデア開発とプロトタイプ作成にかける時間を調整する必要があった。どれくらいだと短すぎるのか、長すぎるのかを学び、最後にはちょうどよい配分がわかった。