成功するアイデアは、どの条件下で誕生するのか?
過去のワークショップの結果を見直してみると、ある問題に気づいた。ワークショップのあとで実行に移され、成功したアイデアは、喧々囂々のブレーンストーミングで生み出されたものではなかったのだ。最良のアイデアはちがう場所で生まれていた。ではどこで?
参加者は、それまでと変わらない方法でアイデアを思いついていた。机に向かっているときや、カフェで誰かを待っているとき、シャワーを浴びているときなどだ。一人で考えたときのほうがよいアイデアが浮かんだ。ワークショップの高揚感がさめると、ブレーンストーミングのアイデアは輝きを失った。
セッションでは時間が足りなくて、深く考えられないのかもしれない。紙に書くだけで、リアルなものをつくらないのがいけないのかもしれない。考えれば考えるほどアラが見えてきた。
そこでブレーンストーミングの手法を、自分の仕事のやり方と比べてみた。
自分がベストの仕事をできたのは、大きな課題に十分とはいえない時間でとりくんだときだった。
そうしたプロジェクトの1つに、2009年に行ったものがある。ピーター・バルシーガーというGmailのエンジニアが、電子メールを自動で分類する方法を考案した。僕はこの「プライオリティ・インボックス(重要メール受信トレイ)」というアイデアに惚れ込み、アニー・チェンという別のエンジニアに手伝ってくれるよう頼んだ。
アニーはひと月だけならつき合ってくれるといった。この間にアイデアが有望だという確証が得られなければ、別のプロジェクトに移るという。ひと月で足りるはずがないと内心思ったが、アニーはとびきり優秀なエンジニアだから、それを呑むことにした。
僕らはひと月を1週間ずつの4つのブロックに分け、毎週新しいデザインを開発した。それをもとにアニーとピーターが試作品(プロトタイプ)をつくり、週の終わりに数百人に試してもらった。
ひと月が終わるころには、誰もが理解でき、しかも使いたくなるソリューションができた。アニーはその後もプロジェクトにとどまってくれた。そして僕らは通常の数分の一の時間で、デザイン作業をやり遂げたのだ。
その数ヵ月後、ウェブブラウザ上で動作するビデオ会議ソフトのアイデアを試すために、ストックホルムのグーグル社員、セルジュ・ラシャペルとミカエル・ドラッジの2人を訪ねた。3人で必死に作業を進め、僕が滞在していた数日間で、動作するプロトタイプを完成させた。僕らはそれを同僚にメールで配布し、自分たちのミーティングでも使い始めた。数ヵ月たつと、ソフトはグーグル中で使われていた(開発と改良を重ねたものが、のちに「グーグルハングアウト」として公開された)。