商品の価値をどう伝えるか?

 商品の価値は黙っていて伝わるものではありません。一生懸命、伝えなければわかってもらえない時代です。

 ただし、「一生懸命伝える」とは、「必死になって、声を大にして伝える」「たくさん広告を出す」ということではありません。消費者は自分の関心があるものにしか耳を傾けません。どれだけの音量で、どれだけの頻度で投げかけても、興味を持たない内容は、右耳から左耳に抜けてしまうだけです。

 また、「見せ方を考えろ」とよく言われます。自分の商品やサービスを違ったふうに見せて、顧客の注目を集めろということです。意図としてはわかりますが、この「見せ方」という言葉について、少し立ち止まって考えなければいけません。

「見せ方を考える」とは、その商品を顧客にどう見せるかを考えるということですね。たしかに、まったく考えずに伝えるよりはいいでしょう。

 ただし大切なのは、見せ方ではなく「見え方」です。自分が相手にどう見せるかを考えるより、相手から自分がどう「見え」ているかを考える方がよっぽど重要だからです。

 この話を、異業種交流会での“セルフプロデュース”に置き換えて考えてみましょう。以前、ぼくの友人が「自分を『優秀な人材』に見せよう」と、いろいろ着飾ったり、優秀な人のように振る舞おうとしていました。

 彼は「優秀な人材は、胸ポケットに花を挿したりするから、オレもそうする」「ビールを飲むと安っぽい奴になってしまうから、シャンパンとワインしか飲まない」と言っていました。

 ずいぶん偏ったイメージではありますが、それ以前に、彼が考えているのは「見せ方」のことなんですよね。つまり、自分の感覚でしか考えていなくて、それが周りの人たちにどう「見え」ているかまで考えられていないわけです。

「見せ方」は自分視点です。一方、「見え方」は相手視点の考え方です。この視点に立とうとすることが、何よりも大事なのです。商品も同じです。「自分が商品を相手にどう見せたいか」よりも、「相手にその商品が、どう見えているか」の方がよっぽど大事です。考えなければいけないのは、「見せ方」ではなく、相手からの「見え方」なのです。

「一生懸命に伝える」とは、相手からの「見え方」を考え、相手がほしくなるような「見え方」に整えることです。そして、どうすればそうなるかを一生懸命に考えることです。

 あなたの周りにある「売り込み(広告・商品の売り込み)」を見てください。今、あなたがどこでこの本を読んでくれているかはわかりませんが、何かしらの「売り込み」が近くにあると思います。それらを見てください。

 消費者からの見え方を気にしていない安易な広告や宣伝が多くないですか? それらの売り込みを見て、買いたいと思いましたか?

 多くの場合、「No」だと思います。せっかく企業が一生懸命に作った商品でも、その良さや価値が伝わっていません。

 これは、モノを売っているから悪いということではありません。最近、「モノではなく、体験を売らなければいけない」と言われることがあります。モノ消費と対比して、「現代は“コト消費”」と言われたりもしています。たしかにこの方が時流に合っている感じがします。ですが、売っているものが、「物体でなければいい」「体験を売ればOK」と、短絡的に考えてはいけません。

 たとえば、「千本ノック体験(千本ノックを受ける体験)」が売られていたとしても、誰も買わないでしょう。たしかにモノではなく体験ですが、それは「ほしくない体験」です。

 この千本ノックの体験の中に、何か別の哲学的・人生的教えがあれば別かもしれませんが、単なる千本ノックを、お金を払って体験する人はおそらくいません。

 体験を売ればいいということではないんです。当たり前ですが、それは「求められる体験」「みんなが望んでいる(したいと思っている)体験」でなければいけません。