95ページに「『どうなる』は漢の思案ではない。漢は『どうする』ということ以外に思案はないぞ」という新撰組の土方歳三の言葉をひいて、こう続けています。

「大切なのは『どうなるか』と心配するよりも『どうするか』である。状況に呑み込まれるのではなく、自分が主導権を握って状況をコントロールすることだ」

ローソン会長・玉塚元一氏は『週刊文春編集長の仕事術』をこう読んだ

 この言葉はいいですよね。経営もまったく同じです。「どうなる」を考えていても仕方がなくて、「どうするのか」ということを考え続けるなかで、さまざまな課題をクリアしていくものだからです。そして、何といっても全編を通して出てくる「フルスイング」という言葉が大好きですね。たぶん新谷さんは「フルスイング主義」を広めたいのでしょう。

――企業は、効率や生産性の向上に突き進もうとしています。しかしフルスイングという言葉には、無駄な部分もあるというニュアンスが感じられます。玉塚さんは、その無駄な部分でさえも何かに生かせるという視点で見ていらっしゃるのですか。

 というより、時代が変化しているなかでお客さまの絶大な支持を得たり、今までなかった新しいビジネスモデルを作ったりするチャンスをものにするためには、局面、局面でフルスイングするしかありません。ハーフスイングや、OBを避けるためのコントロールショットでは、失敗もしない代わりに強烈な成功もありません。フルスイングすることで大きな失敗をしても、その学びは次のチャレンジに生かされる。中途半端なスイングを繰り返しているよりも、勝負所だと思ったらフルスイングして新しい気づきを得ないと、イノベーションは起こせないのです。

 新谷さんも、毎号の編集過程でフルスイングしているからこそ、読者の心に響く、驚くような記事が出てくるのではないでしょうか。フルスイング主義は、新谷さんの「元気にしよう」「壁をぶち破ろう」という思いの表出だと思います。その姿勢には、私も大いに賛同します。

高レベルの緊張感とスピードで「感度」を磨く

――フルスイングは「感度」とも関係していますよね。

 そうですね。見当外れのところでフルスイングしても、意味がないですからね。週刊文春では毎週の編集会議には、記者から何百というネタが上がってき、そのネタのなかから、ニュースバリューや面白さを基準に絞り込んでいくそうですが、この作業は雑誌の価値を決定づける重要なプロセスです。これを的確に遂行するには、日々、感度を高めていなければなりません。新谷さんは独自のネタ元や人脈との対話で感度を高め続けているからこそ、これは絶対に逃してはならない、それを徹底的に掘り下げよという感度が働くのではないでしょうか。そして、高いレベルの緊張感とスピードで感度を磨き続けているので、フルスイングの勘所が研ぎ澄まされるのでしょう。

――そういう意味では、経営者の玉塚さんも同じような状況ではないでしょうか。

 いやいや、新谷さんほどのスピード感と情報量はないですよ。ただ、私の場合は加盟店の人たちと頻繁に話をしたり、まったく違う新しい技術に取り組んでいる人たちの話を聞いたりすることで知見を積み上げているので、そうした点と点がつながる瞬間はありますね。そのときには、これは絶対進めるべきだという判断を下し、プロジェクトを動かしていきます。そこは、本質的に似ているかもしれません。

――まさに感度。玉塚さんのセンサーに反応するということですね。

 感度もそうですが、実行力とスピードも欠かせません。まず、情報の重要性に気づかないとダメだけど、気づいているのにアクションしない、あるいはアクションしても遅いのもダメです。この三つが全て実行できていないと、物事は成し遂げられないのです。そういうこともこの本には書いてあるので、だからこそ共感したのだと思います。

――お忙しい中、ありがとうございました。