震災から1ヶ月以上、三菱の工場では1日単位で生産量が決められていた
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 5月の新車販売台数はトヨタ自動車が57.8%減、ホンダは32.6%減──。東日本大震災による生産の減少は自動車販売を直撃している。

 ところが、三菱自動車だけは7.4%減にとどまっている。その背景には生産正常化が早かったことがある。三菱の4月の生産の減少幅は4割程度と少なく、5月にはほぼ正常化を果たした。他社が7~8月に正常化というペースだから1ヵ月以上早いことになる。

「偶然、西日本に工場が集中していたから」

 ほとんどの業界関係者は三菱の生産正常化の理由を、そうとらえている。事実、三菱の主要な開発・生産拠点は、愛知県や岡山県にある。

 しかし、三菱関係者はそうした見方に異を唱える。「震災直後から、スピード感を持って、緻密な連携をしてきたおかげ」(野村真三・調達本部副本部長)とその秘訣を打ち明ける。

 どうすれば震災による、生産・販売の減少を食い止めることができるのか。三菱では、3月11日の地震発生の翌日から、東京都田町の本社で、愛知県、岐阜県、京都府、岡山県の生産拠点をテレビ電話回線でつなぎ、毎日15時から、5元中継で討議を重ねてきた。

 ここで、自動車生産の常識では考えられない部品の発注の意思決定がなされていたのだ。

 三菱のみならず自動車メーカーは部品メーカーに対して、1ヵ月前にひと月分の部品を発注するという「1ヵ月単位の発注」が常だ。ところが、震災以降三菱は、1日分の納入を2日前に注文する、「1日単位の発注」に改めた。

 さらに、発注の仕組み自体も大きく変えた。どの自動車メーカーも生産の現場と直結したシステムをコンピュータで管理しているが、これを人海戦術に変えたのだ。「各生産拠点の担当者10人ほどが数十社に毎日電話をかけて、状況を確認」(高瀬賢吾・生産管理副本部長)し、15時の本社での会議に情報を伝えるように変更した。

 それを受けた東京本社では18時までに翌々日の生産量を決め、その日のうちに再び生産拠点の担当者が部品メーカーに発注する。こうした常識破りのプロセスが4月下旬まで毎日繰り返された。

 この間、むろん他の大手メーカーも生産開始に躍起になっていた。

 ただし、「1ヵ月前という仕組みはそのままにして、量だけを5割にしてもらうという方法で発注してきた」「人は必ずミスをする。どんな状況でも発注のシステムを使わずに人間が電話で確認というのはうちの規模ではありえない」(大手自動車メーカー)と、三菱のように発注の仕組みそのものに踏み込む大手メーカーはなかった。

 早期の生産正常化のおかげで、三菱の世界全体の生産台数は前年を上回るという。常識破りの人海戦術による1日分発注が功を奏したといえよう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)

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