求人サービス会社エン・ジャパンでは、進行がんになった37歳の社員が働いている。鈴木孝二社長は、この社員からある申し出を受けた。それを社長はどう受け止めたのか――。『週刊ダイヤモンド』の5月13日号の特集は「がんと生きる ~仕事 家庭 家計 治療」。がんになったとき、会社と社員はその関係を試される。
――新卒で2002年に入社した西口洋平さん(37歳)が15年、最も進行した進行度IV期の胆管がんであると診断されました。西口さんはグループ会社のエンワールド・ジャパンを16年に退職し、グループの中核であるエン・ジャパンでパートタイム社員として働いています。なぜ雇用形態が変わったのですか。
かつて大阪拠点を立ち上げたときのオフィスは小さくてぼろぼろの雑居ビル。電話で営業すると、部屋が狭すぎて自分の声が壁に反響し、相手の声か自分の声かよく分からなくなる。だから壁に段ボールを貼ったりして、まさに“ドベンチャー”。西口はそんな時代からの社員です。社員数も数十人で、採用面接のときのことも、入社してきたときのことも、よく覚えています。
がんになった西口は「ステージ(進行度)が進んでしまっているので、いつ何があってもという状況で今考えています」と私に言い、グループ会社(エンワールド・ジャパン)を辞めて、キャンサーペアレンツ(子供を持つがん患者をサポートするウェブサービス)という社外の活動に本腰を入れるという決意を明かしました。
そのうえで「無理でしたら全然いいんですけど、エンに何かを残したい」と言った。私は「分かった。探してみる」と返し、人事に話したところ、社員採用を担うチームへ来てもらおうということになったんです。
――申し出を受けたとき、即座に任せる仕事があると思ったのですか。
思いました。拠点の立ち上げや新規開拓といった幾多の苦労を共にしてきた。出向を通じてまったく異なる風土で奮闘していることも聞いていた。その経験から(グループの中核である)エンがいかに恵まれているかを実感して「他の風土に触れたことがないエンの社員に、もっと伝えていきたい」という思いがあることも知っていた。グループ会社で人材紹介事業に携わっていたので、採用業務の実務経験もある。そうした経験、実績から、時間を限定してもパフォーマンスは担保できると思ったんです。