現在進められている賠償スキームでは、他の電力会社も原発賠償機構に負担金を拠出する。これもおかしな話だ。将来起こる事故ならまだしも、いま起きている東電の事故の賠償を他の電力会社に負担させる正当性は見当たらない。

 賠償金原資の確保と電気料金の値上げが結びつく道筋は、そもそも存在しない。電気料金を値上げする、という発想が出てくる体質こそが問題だ。他の電力会社を補償スキームに巻き込むことも根は同じで、他人の財布を当てにしてもそうはいかない。

 本来、今回の事故の補償金は、次の順序で進めるべきだ。まず、東電がすべての資産を売却、リストラを断行したうえで、株主の株価はゼロになり、銀行にも債権放棄をのませて、利害関係者に何も出すものがなくなってから、はじめて原発埋蔵金を導入する。それでも足りなければ、最後は国民が負担する。投入されるのは、電気料金ではなく税金だ。

 その際、東電は解体し、損害賠償を負担するだけの機関としてのみ残す。電力の安定供給を担う事業部門(発電、送配電、変電、通信、料金徴収等)は、新たに設立した別会社に現状の人と資産を移行させ、一時的に国有化する。そして時機をみて、発電・販売部門と送配電部門に分離・売却することで、補償スキームに国が投じたカネを回収し、余剰金が出た場合にはこれも賠償に回す。

 これが筋というものだ。

 利害関係者の痛みを回避し、経済産業省、財務省やメガバンクの思惑で造り上げられた現在の東電“ゾンビ”スキームは、到底容認できない。