糖尿病の三大合併症の一つ、糖尿病網膜症。緑内障につぐ中途失明原因でもある。

 糖尿病網膜症は、血糖が高い状態のなかで眼の一番内側の網膜に酸素と栄養を運ぶ細い血管が少しずつボロボロになり、酸欠状態に陥ることで悪化する。

 網膜組織は酸素不足を補おうと新しい血管を作るが、急造血管は脆くて出血しやすい。このため、網膜にカサブタ様の繊維組織が出現し、網膜そのものを傷つける。重症化すると網膜はく離を起こし、失明に至ることもある。

 糖尿病網膜症の発症予防は、一にも二にも「血糖コントロール」なのだが、先日、日本人を対象とした調査から日頃の運動が予防に効果的であることが示された。

 奈良県立医科大学糖尿病学講座の研究グループは、天理よろづ相談所病院に通院中の糖尿病患者から、糖尿病網膜症を患っていない2型糖尿病患者1814人を抽出。患者の平均年齢は65.5歳、体格指数(BMI)平均は24.5で、過去1、2カ月の平均血糖値の目安となるヘモグロビンA1c(HbA1c)の平均値は7.2%だった。参考までに、合併症予防のために目指したいHbA1cは7.0%である。

 対象者については、エクササイズだけでなく、安静時の活動量を1として活動量を換算する「メッツ」を用い、生活動作を含めた身体活動量を調査。たとえば「洗車」は3メッツに相当し、60分続ければ立派なエクササイズとなる。

 2年間の追跡期間中、対象者の1割にあたる184人が糖尿病網膜症を発症。身体活動との関連では、全く身体を動かさない0メッツの人と比較し、26.4メッツ・時/週以上の患者では、明らかに糖尿病網膜症の新規発症率が低下していたのである。

 そのほかの発症リスクは、やはり血糖コントロール不良、高血圧、腎機能の低下などだった。

 厚生労働省は、健康な成人に対しエクササイズと生活上の身体活動とを合わせ、26メッツ・時/週を行うよう推奨している。血糖値が高い場合は、なおさら適度な運動が必要だ。合併症の発症予防のためにしっかり身体を動かそう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)