優れたプロから学ぶべきは「深層対話の視点」

 ただし、こう述べてくると、読者の中から、疑問の声が挙がるかもしれない。

「たしかに、直観も大切だが、やはり、論理的に商談や会議を振り返ることも重要だろう…」

 その通り。商談や会合での議論を「論理的」に振り返ることも、重要なことである。しかし、その「論理的」な振り返りは、「直後の反省会」でなくともできることであり、また、経験豊かなリーダーならば、商談や会議の後、1人でもできることである

 この「直後の反省会」の最も大切な意義は、商談や会議の「記憶」と「印象」の新鮮なうちに、メンバー全員の「直観」や「感覚」を持ち寄って、振り返りを行うことにある。

 なお、こうした社外での商談においては、A課長が、D君に対するコメントで言っているように、「席の座り方」によっては、表情や仕草を見ることができない顧客もいる。そうしたとき、他の参加メンバーから見えていた表情や仕草は、やはり、参考になる。

 ちなみに、筆者は、商談においては、基本的に、顧客全員の表情が、自分からの「死角」にならないように座ることを心掛けたが、どうしてもそれが難しい場合には、商談の前に、「自分は、先方のA部長の表情に注意するから、B君は、先方のC課長の表情に、D君は、先方のE担当の表情に注意しておいてくれ」といった形で、メンバーに指示を出しておいた。いわゆる、「マンツーマン・ディフェンス」である。

 さて、いま紹介したのは、社外での商談の場面であるが、社内での会議や会合においても、「直後の反省会」の進め方のポイントは、全く同じである。

 大切なことは、この「直後の反省会」において、顧客や参加者の「言葉以外のメッセージ」を感じ取ることであり、「無言のメッセージ」を読み取ることであるが、同時に大切なことは、こうした反省会を通じて、若手メンバーが「深層対話の技法」を身につけ、「深層対話力」を身につけていくことである。

 なぜなら、若手メンバーが、こうした形で、「複数メンバーによる反省会」を経験しておくと、将来、一人で商談を行うときも、自然に、心の中で、「1人での反省会」を行い、商談で交わされた「言葉以外のメッセージ」を感じ取り、そこで起こった「顧客との深層対話」を振り返ることができるようになるからである。

 このように、商談や交渉、会議や会合の後の「直後の反省会」は、若手メンバーの成長や育成という意味でも、極めて大切な意味を持っているが、この場には、やはり、優れた「深層対話力」を持つ、上司や先輩などのプロフェッショナルが同席することが望ましい

 それは、なぜか?

「深層対話の視点」を学ぶためである

 では、「深層対話の視点」とは何か?
 
 また、1つの場面を紹介しよう。
 
 A社との商談が終わった帰り道。タクシーの中で、B部長と若手のC君が反省会を行っている。

B部長 「先ほどの商談、君は、何を感じた?」

C君  「先方のD部長、当社の技術コンセプトの提案、大変、満足されたようですね…」

B部長 「君の技術プレゼンは、なかなか上手かったからな・・・。良く頑張ってくれたね。ところで、君は気がついたかな?」

C君  「何でしょうか?」

B部長 「先方のE課長、会議の終わり頃、小さなメモを、D部長に渡したな…」

C君  「え、そうですか? 私は気がつきませんでしたが…」

B部長 「そうだろうな…。こちらに気がつかれないように、小さなメモを手の平の下に隠して、そっとD部長に渡したからな…」

C君  「そうでしたか…。部長は、それに気がつかれたのですね…」

B部長 「あのメモ、何が書いてあったと思う?」

C君  「いや、分かりませんが…」

B部長 「あのメモ、先方の部署の今期の開発予算が書いてあったんだよ…」

C君  「何で、そんなことが分かるんですか?」

B部長 「おそらく、そうだろう…。E課長からメモが渡った途端に、D部長、それまで当社の技術コンセプトに強い興味を示して、盛んに質問していたが、急に、プロジェクトの予算見積りについて、厳しいことを言い出したじゃないか。あれは、E課長から『今期の開発予算は、ここまでなので、見積りを叩いてください』というメモが渡ったからだよ…」

C君  「なるほど、そういえば、会議の終わりごろには、D部長、少し雰囲気が厳しかったですね…」

B部長 「だから、ご苦労だが、今夜、プロジェクト予算の見積りを見直した提案書を作って、明日の朝一番に、先方のE課長に送っておいてくれるかな…」

 これは商談の直後の反省会の場面であるが、同時に、このB部長、若手のC君に大切なことを教えてあげている。