食べることは命のリレーです。単に必要なエネルギーを体内に取り込むことではなく、命のつながり、つまり関係性こそが重要なのです。
ところが、前回も書きましたが、食品はいつの間にかただの「商品」となってしまいました。その結果、他の生きものの命をいただく、そのことで自分たちの命を長らえさせている、という感覚が次第に薄れ、私たちは食べものを通した関係性を意識することが少なくなってしまいました。
たしかに、世界中の食べものを、いつでもどこでも好きなときに食べられるというのは魅力的です。エキゾチックな料理を楽しんだり、地球の裏側から運ばれた季節外れの食べものが入手できるようになって、私たちの食生活は一見豊かになったようにも思えます。残業を終えて、あるいは友だちと遊んだ後、どんなに遅い時間でも、コンビニに行けば簡単に食べものが手に入るのは、便利と言えば便利です。
しかし、そのいっぽうで日本の伝統的な食文化は崩壊の危機を迎えています。
国や自治体もそれを守るためのさまざまな働きかけをしていますが、なかなか効果的な手が打てていない状況です。たしかに食文化を守ろう、といっても個人であれ企業であれ、具体的に何をしていいのかわかりません。そこで今回は、普通の人たちが食文化を守るための第一歩となる私なりの視点を示していきたいと思います。
食文化とはそれを食べる地域の特性と歴史を背景にした総合的な文化です。その地域にどのような自然があり、その結果、どのような食材があるのか。それをおいしく食べるために私たちの祖先はどのような工夫を積み重ねてきたのか。歴史的な時間軸で見れば、私たちは常に食べものに恵まれて来たわけではありません。むしろ人類の歴史は、飢餓との闘いであったとも言えます。そのような中で、私たちは大切な食べものを家族と、仲間と、そして神とわかちあって来たのです。そうした私たちの生き方や、周囲との関わり方、関係性のあり方のすべてが、食文化の背景にはあるのです。