かつて、送配電の独占が許されていた理由は、ひとえに技術的な問題だった。しかし、テクノロジーは瞬く間に発展した。今や、ITなどの情報通信技術も市場・金融テクノロジーも、かつての “牧歌的な”時代とはまったく違う。発電と送配電の事業主体が切り離されても、まず技術的な問題は起こらない。
経済のあり方も、やはり“牧歌的”な時代とは異なっている。現代においては、たとえば金融事業でインサイダー取引が厳しく規制されるように、「公共的なサービスを提供する主体」か「営利を追求する主体」かの峻別が厳しく問われる。電力事業においても、公共サービスを提供する送配電の主体と純ビジネス的な電力売買の主体が兼務する構造は、もはや無理がある。
従来の電力会社は確かに電力の安定供給を担ってきたが、必ずしも公共的なサービスとは言えないやり方だった。御用学者を使って自分たちに都合の良いことだけを推し進め、市場から他のプレーヤーを排除してきたことは、明らかな事実である。公共性を第一義とする送電線をいまの電力会社の構造のままで運営することは、もはや時代にそぐわない。
送配電システムのブラッシュアップが
イノベーターの参入を呼び込む
送配電部門の最も重要なミッションは安定供給と公正な電力市場の構築だ。それは国営でなくとも担保できる(むしろ国営でない方がよい)。ただし、日本の電力市場があまりにも古典的な状況にあることから、新しい仕組みの整備は必要だ。
安定供給に関して言えば、電気の需要と供給と送電に関して責任を持つ「トランスミッション・システム・オペレーター(TSO)」の設置は不可欠だ。電気の安定供給に関するあらゆる情報を集約する役割である。TSOは、時々刻々の電力需給を厳格に管理するため、市場取引とは一線を画す存在となる。