一方で、電力取引市場の存在も欠かせない。
現在、日本では卸電力市場のみが運営されているが、これは個別取引でも対応できる。むしろ最も大事なのは、電気の過不足をリアルタイムで決済する「インバランス市場」もしくは「リアルタイム市場」である。この市場がきちんと整備されれば、電力のピーク時には電力価格があがるため、需要を押し下げる効果がある。
日本におよそ6000万kWもあるとされる自家発・非常用電源からの供給を増やすインセンティブにもなる。こうした市場の力で、電力不足や停電のリスクも十分に低減できる。
電力取引市場のあり方に関しては、具体的な運用を含めて、ヨーロッパが先行し知見を蓄積している。日本では、いまだに「自由化されたら直ちに停電」という粗雑な議論がまかり通っているが、停電と発送電分離の議論は切り離さなければならない。
自然エネルギーは「第4の革命」と言われている。そこに、ITを駆使して電力需給を最適化し、コスト削減と省エネを実現する「スマートグリッド」の世界が重なり、現在の電力業界にはまたとないイノベーションのチャンスが訪れている。
この現象は、IT分野と何ら変わらない。
次々に新しい革新的な企業が誕生し、それをたとえばマイクロソフトがスカイプをM&Aしたように、より大きな市場でのサービスとして組み込んでゆく。イノベーティブな企業のサービスに魅力があれば、大きなプレーヤーがその企業を買収して自らの新しいサービスに取り込んでいく。マーケットでM&Aが起こるのは、一つの健全な姿だと思う。
今の日本の電力業界に、新しい芽が出てくる余地はない。東京電力をはじめ大きな電力会社と国が政治的にコントロールしようとする「閉じた不自由な環境」が、イノベーティブな芽を押し潰しているのが最大の原因だ。
発・送電を分離するだけでなく
全国一体にすることが望ましい
現在の電力供給体制は、安定供給を担保するより以前に、弊害のほうが大きい。
今回の東電原発事故で、東西間の電力融通がわずかに100万kWしかないことは、誰の目にも明らかになった。エリア別に分かれた電力会社ごとで、管内の送配電網は十分すぎるほど拡充されているが、エリア間で電力を融通することはきわめて難しいのである。設備的な限界がある上に、一体的な運用をする仕組みや市場がほとんど存在しないからだ。