伊藤忠が権益を取得したドラモンド社のコロンビア炭鉱。現在すでに年間2500万トンを生産している

 伊藤忠商事が、約1265億円を投じ、コロンビアの石炭権益の20%を取得した。その投資額は、日本企業による新規炭鉱獲得では史上最高額、伊藤忠史上でも1998年に約1350億円を出資したファミリーマートに次ぐ巨額投資であり、業界を驚かせた。

 なぜ、コロンビアの石炭なのか。日本は世界最大の石炭輸入国であり、財務省貿易統計によれば、昨年度は年間約1億8400万トンをオーストラリアやインドネシアから輸入している。しかし、近年はその安定調達に影が見え始めた。生産量世界1位の中国が、それでも足りずに2009年から純輸入国に転じており、輸入量は早くも日本に次ぐ量となっているのだ。

 中国での劇的な需要増加による安定確保の問題と、輸入量の約64%を占めるオーストラリアへの集中リスクは「商社や日本企業の資源調達において、直近の課題となっていた」と、川口浩一・伊藤忠商事金属エネルギーカンパニー新エネルギー石炭部門長代行は言う。現在世界全体での一般炭の貿易量は約7億4000万トンだが、アジアでの需要増により、20年までにその量は10億トンに増えると見られている。伊藤忠は、すでに生産が開始しているコロンビアの石炭を、早ければ今期から日本を含むアジアの電力会社向けに供給する。

 国内では、東日本大震災を受け、にわかに石炭需要が高まっている。この夏の電力不足への対応に追われるある電力会社幹部は、発電燃料用の一般炭について、「今年の夏は絶対に品位を落とせない」と漏らす。

 高品位の一般炭は、他の一般炭に比べ、同じ発熱量でも灰分や硫黄分などの割合が低く、発電効率がよい。日本の電力会社はかねて高品位の一般炭を好んで使用しており、現状から品位を下げることは、発電効率自体を下げることに等しい。「電力会社にとって高品位の一般炭を確保することは、現状では電力の安定供給の必須条件」(中島裕行・国際協力銀行資源ファイナンス部第4班課長)なのだ。

 これまで石炭は、従来型の発電燃料のなかでもCO2の排出量が多く、他の燃料と比べて劣るとされていた。それゆえ値段も他より安い。高品位のコロンビアの石炭が需要家にとっての新たな調達先の一つになるかもしれない。

 もっとも、業界内にはこの巨額投資を疑問視する声もある。じつはこの案件については、他商社では採算が合わないと見て投資をしなかったという経緯がある。とりわけ、石炭を日本へ持ってくる物流コストが懸念材料だった。

 しかし、川口部門長代行は、14年以降に予定されているパナマ運河の拡張が順調に進めば、南米コロンビアからの物流コストも「現在の3割近く抑えられる」と意気込む。オーストラリアやインドネシアに次ぐ第3の供給地になりうるか。伊藤忠の強気の資源戦略を業界は注視している。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 脇田まや)

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