すべては、自動販売機の地図を作ったことから始まった。その時、派遣社員の夏野ことみさん(仮名、38歳)は某大手商社に勤務する社員だった。

「まだパソコンもない時代で、貿易事務はアナログそのもの。ゴールデンウィークになるとメーカーも動きませんから、出社しても暇でしょうがなかったんです」

 そんなある日のこと。

「暇だなー」

 と、矢も盾もたまらなくなった夏野さん。

 ふと、あることをひらめいた。

「ビル中にある自動販売機を調べてみよう」と思ったのである。

全社網羅の「自販機マップ」がはじまり
買い出しする女性社員の強い味方に

 勤務していた会社は、東京都心の一等地にあった。むろん、ほぼ全階が自社と関係各社で埋まっている。

「行く?」

「ついてくー」

 と、ややノリの良い後輩をひとり連れ、夏野さんはエレベータで本社の20階へと上った。

 ビルの東側、次に西側と分け、2人は自動販売機の調査を開始した。

「あったー」

「あ、こっちも」

 自販機が見つかると、2人はそのメーカーと品揃え、あるいは金額などをメモして歩いた。調査はワンフロアずつコツコツと、階段を下りながら進んでいく体力勝負となった。

「でも、楽しかったですよー」と夏野さんは振り返る。そうして地道に集めたデータを次にどうしたかと言えば、小冊子にまとめた。