システム化範囲を正しく決めるためには、まず、システム開発・導入時点の業務フロー図に「経営方針に基づいたシステム化の目的」を書き込んでおくことが大切です。

紙面の端でも、どこでも構いません。システム化の目的を目立つように書き、その目的と各業務のシステム化が結びついていることを確認しながら仕上げていくのです。

そして、それを経営陣や、実際にシステムを使うことになるエンドユーザーに見せて合意を得ることにより、初めて、システム化する範囲が決まるのです。

下図の右上にある緑色の四角が、システム化の目的です(この図を読めない方へ。そこには「顧客情報の迅速な収集分析と囲い込み」「ウェブの活用で既存チャネルのない客層に当社を周知」「若年層への当社へのイメージ刷新」と書いてあります)。

「そもそも、そこをシステム化する必要があったんですか?」という大問題各業務のシステム化を、そもそもの「目的」に照らし合わせて判断する

この例で言えば、システム化の目的に照らし合わせると、「回答/情報収集」「情報分析」「ウェブ会員サービス」「プロモーション企画・実施」はシステム化すべきだが、その他は特にシステム化すべき理由がない、ということがわかります。このメリハリこそが、無駄なシステムを作らないための1つのポイントなのです。

この図だけを見ると、ほんの「小ネタ」に見えるかもしれません。しかし、システム開発・導入の担当者が、経営陣に投資を依頼し、エンドユーザ部門に納得してもらうために、そして何より、システム開発・導入を進める際、声の大きい人に引きずられて余計な機能をつけたり、大切な機能を落としたりしないために、このチャートはきっと役に立つはずです。

ついでに言えば、このようにドキュメントにシステム化の目的を書き込むのは、この業務フローだけではありません。要件定義書に書かれた一つひとつの要件が目的に結びついているか、ユーザ受け入れテストの項目が目的と結びついているかなどを確認するために、それらのドキュメントにも、システム化の目的を書き込んで関連付けを確認する必要があります。

『システムを「外注」するときに読む本』の第1章では、初めて自社のシステム導入を担当することになったシステム担当者が、こうしたことを理解せずに業務フローを書いて、経営陣から激しい叱責を受ける場面から始まります。

彼が、どうやってこうしたことを理解し、さらに、今回書いた「システム化の目的」以外にどのようなことを業務フローに書き込んで、経営的な苦境に立たされた会社を救うシステムを開発していくのか。そのあたりを、是非、読んでいただければと思います。

細川義洋(Yoshihiro Hosokawa)
経済産業省CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。立教大学経済学部経済学科卒。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員。大学卒業後、NECソフト株式会社(現NECソリューションイノベータ株式会社)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エム株式会社にて、システム開発・運用の品質向上を中心に、 多くのITベンダと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。 独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行なう一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。
これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より経済産業省の政府CIO補佐官に抜擢され、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる。著書に『システムを「外注」するときに読む本』(ダイヤモンド社)、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか!』『モメないプロジェクト管理77の鉄則』(ともに日本実業出版社)、『プロジェクトの失敗はだれのせい?』『成功するシステム開発は裁判に学べ!』(ともに技術評論社)などがある。