いまメディアで話題の「マレーシア大富豪」をご存じだろうか? お名前は小西史彦さん。24歳のときに、無一文で日本を飛び出し、一代で、上場企業を含む約50社の一大企業グループを築き上げた人物。マレーシア国王から民間人として最高位の称号「タンスリ」を授けられた、国民的VIPである。このたび、小西さんがこれまでの人生で培ってきた「最強の人生訓」をまとめた書籍『マレーシア大富豪の教え』が刊行された。本連載では、「お金」「仕事」「信頼」「交渉」「人脈」「幸運」など、100%実話に基づく「最強の人生訓」の一部をご紹介する。

現場にいる者が「自分の意思」で判断する

 現場との距離感――。
 これは、事業が大きくなればなるほど、トップにとっては重要になるテーマです。

 私はひとりで起業しましたから、営業はもちろん、経理などの事務処理からお金の回収、銀行との交渉などあらゆる仕事をひとりでこなしました。ビジネスの基本をすべて現場で叩き込むことができるのは、たったひとりで起業した者の強みかもしれませんね。

 しかし、仕事がうまくいき始めると、人を少しずつ増やしていかなければなりません。現地の人を採用して仕事を任せる。その積み重ねで今に至るわけです。その際に、私はひとつの方針を徹底してきました。権限の委譲です。一人ひとりの社員が自分の頭で考えて、現場の出来事に対応してもらうことを徹底してきたのです。

 そうでなければ、まともなビジネスができないからです。私は若いころから事業家として生きてきましたから、すべて自分の頭で判断をしてきました。ところが、これまでにお付き合いしてきた大企業のサラリーマンの多くが、「持ち帰って検討いたします」と言う。率直に言って、それでは交渉相手にはなりません。であれば、意思決定権限のある人物を寄越してほしい。それが、的確な意思決定をスピーディに行うという、ビジネスの基本であるはずです。

 だから、私は部下には常々、「自分の頭で考えて意思決定をしてきなさい」と言い続けてきました。もちろん、委ねる権限には役職に応じて制限を設けます。しかし、権限範囲内の意思決定については全面的に任せてきました。あまりにも的外れな意思決定をしたときには叱らなければなりませんが、もともと、その部下が判断を間違えたとしても、バックアップ可能な範囲で権限委譲をしているのですから、多少の判断ミスに慌てることもありません。むしろ、何でも私に意思決定を求める結果、「モノ」を考えない人材に育つことのほうが、よほどリスクが高いというべきでしょう。

 そして、意思決定を委ねるということは、現場そのものを任せるということにほかなりません。だから、私があまり頻繁(ひんぱん)に現場に手を突っ込むのは控える必要があります。そもそも事業規模が大きくなれば、物理的にもそれはできなくなります。

 だから、重要なのは、誰に権限委譲をすべきかの判断を間違えないことです。これを間違えると現場が混乱し、会社が足元から崩れ始めます。これは、会社のリーダーの最も重要な仕事のひとつだと心に刻んでいます。