意思決定において満たすべき必要条件を理解しておくことは、最も危険な決定、すなわち都合の悪いことが起こらなければうまくいくという種類の決定を識別するためにも必要である。その種の決定はもっともらしく見える。しかし、必要条件を仔細に検討すれば、矛盾が出てくる。そのような決定が成功する可能性は皆無ではないがきわめて小さい。
原発の耐震基準や津波の想定規模、電源喪失の想定などで東京電力や政府が行ってきた意思決定は、まさにこの最も危険な決定「都合の悪いことが起こらなければうまくいくという種類の決定」にほかなりません。
ドラッカーの著書では、今回指摘した内容以外にも、東京電力や原子力ムラの失敗の本質を理解する手助けになる言葉が数多く出てきます。事故発生後に改めて読み直すと、その慧眼にただただ驚くばかりです。
ドラッカーは一昨年に発売された『もしドラ』で一部のビジネスパーソンだけでなく、広く多くの人に知られるようになりました。その『もしドラ』の冒頭で主人公の女子高生みなみちゃんが涙を流した『マネジメント』の中の一文を最後に紹介します。
マネージャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくても学ぶことができる。しかし、学ぶことができない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。
(本稿は、東京電力のマネジメントをテーマにしたものであり、原発の是非をテーマにしたものでないことをご理解、ご了承ください)