なぜ日本人は早く帰れないのか? 働き方を変えるには、個や組織の改善では不十分。改善のヒントはチームの生産性にある。ベストセラー『職場の問題地図』の人気業務改善士が、効率化×プロセス改善で仕事の進め方を根本から変える方法を教える。新刊『チームの生産性をあげる。』から一部を紹介。

 飛行機は最終着陸体制に入った。まもなく、房総半島のまばゆい緑が眠たい瞳に輪郭をあらわす。

“Ladies and Gentlemen, we are making our final approach to Narita International Airport.”

 あちらこちらから、シートベルトを締める乾いた金属音が響く。その音を聞きながら、帰国の安堵感とは裏腹な、どこかセンチな気持ちが私の胸に重くのしかかる。

「とうとう帰ってきてしまった。明日からまた、馬車馬のような日々が始まる……」

 若手の頃、私はスウェーデンの装置メーカーと取引があり、およそ3年間足しげく出張していました。そこで見た光景は、日本企業の常識しか知らない私に大きな衝撃を与えます。

 男女比率は半々くらい。ドイツ人もいれば、中国人もいる。ほとんどがカジュアルウェア。17時を回ると、1人また1人帰っていく。周りの顔なんて気にしない。陽気に挨拶しながらオフィスを出て行く。気がつけば私は最後の1人。せかされるようにして、荷物をまとめます。

 金曜日ともなると、気の早い人は15時過ぎには帰宅し始めます。ふと顔を上げて外を見ると、中庭でバーベキューを始める連中も。ワイングラスで乾杯している。あれ、そういえば今日は生産管理のAnnikaの姿が見えない。娘さんが体調を崩し、今日は自宅でテレワークをしていたそう。

 かといって、決して仕事のレベルが低いわけではありません。技術レベルも品質レベルも高い。すなわち、生産性が高い。中庭で串刺しの肉と野菜を頬張りながら、私は見るもの聞くものすべてに圧倒されていました。

 北欧の夏の日は長く、22時を過ぎても太陽は地平線下に沈もうとしません。17時に仕事を終えて、散歩をして、読書をして、取引先の仲間と食事に行って。そんな充実した日々もおしまい。明日からは再び、サービス残業、付き合い残業、休日出勤が始まる。

「仕方ないね。日本人だもの」

 そう自分に言い聞かせながら、入国ゲートに向かったのを覚えています。私が日本の働き方について疑問を持ち始めたのは、この頃からです。自分たちは日本人だから。日本のカルチャーだから仕方がない。そう割り切って気持ちに蓋をしていたものの。次第にそれでいいのか?と思うように。

「日本人、損している」

 個人の自由が前提の北欧。対照的に、個人の自由を主張すると「わがまま」「社会人失格」と見られる日本。理不尽に思いながら、どうにもできない日々。いまようやく、そのいにしえのカルチャーが転機を迎えようとしています。

「働き方改革」
「ワークライフバランス」

 これらのキーワードのもと、やっと風穴が開くかと思いきや。その風潮には首をかしげざるを得ません。

「ワークライフバランス」が現場にとって重苦しい。強制一斉退社、残業禁止、休日出勤禁止、以上。個人がワークとライフをバランスできるようにするのではなく、会社が個人のワークとライフを無理やりバランスさせる。境界線を引く。

 もちろん、カルチャーを変えるには荒治療も大事。強制も一時の薬かもしれません。しかし、個性が一切無視されている。人によって、仕事のタイプによって、生産性があがる時間帯も環境も異なります。朝は仕事が捗らない人まで無理やり朝出社させたり、オフィスでないと仕事に集中できない人に無理やりテレワークさせたり。本人の主体性を無視した強制が正しいといえるでしょうか? 個人に「やらされ感」しか与えず、モチベーションも生産性も低下する。

 一方で、昨今日本企業が掲げている「ダイバーシティ(人材の多様性)」と相反します。生産性。この観点がすっぽり抜け落ちているのです。

 個人個人が自分の最も生産性のあがる仕事のやり方を実践し、チームとしてのパフォーマンスをあげていく。個性を生かしながら、チームとしての方向を見失わない、同じゴールに向かって走るための、共通言語や共通の仕事のやり方を模索して作りあげていく。その取り組みこそが、個人らしさと組織らしさをともに輝かせる組織風土を生む。サステイナブル(持続可能)な働き方を確立し、中から日本の組織を強くすると信じています。