短期間で挫折してしまうのは、
自分の管理能力を過大評価しているから

 その答えは、「ばかばかしいほど小さな習慣」にあると、『小さな習慣』の著者スティーヴン・ガイズは言う。その「小ささ」は、筋トレであれば「1日腕立て伏せを1回」という「本当にそれだけでなんとかなるの!?」と疑うくらいの小ささだ。

 そもそも人は何かを習慣にしようとするとき、「腕立て伏せ30を3セット」とか、「毎日10キロのジョギング」等、目標を大きくしがちである。ある調査結果によると、人は常に自己の管理能力を過大評価する傾向にあり、大きな目標を立ててしまうのも、それを達成できると自分の能力を過信しているからだという。

 その結果、目標を達成できず、「やっぱり私はダメなんだ……」と自信を失い、達成できない自分への失望感や罪悪感に苛まれる。そして新しい習慣を身につけようとすることさえ億劫になってしまう。どんなに大層な目標を掲げても、行動が伴わなければ意味はない。

 だが、逆にどんなに小さなことでも何もしないよりはずっといいのだ、と著者は言う。たとえば、習慣にしたいことが「ジムに行く」ということであれば、文字通りジムまで行って何もせずに帰ってくる、それだけでもいい。どんな小さな取るに足りないようなことでも、たやすく目標をクリアできて連続記録を途切れさせないでいたほうが、習慣化する可能性が高くなるのだという。その理由を『小さな習慣』では脳科学に基づいて説明している。

「小さな習慣」で
脳の抵抗をやわらげる

 アメリカのある大学の研究によると、私たちのふだんの行動の約45%は習慣で成り立っているという。そしてその「習慣」は、脳が省エネのため、何も考えずに行動を選択できるよう、行動に至るプロセスを自動化したものだという。私たち人間の脳は、特定の習慣をつかさどる神経経路が何らかの合図や外からの刺激で活性化すると、その神経経路に沿って電気信号が走り、それが習慣化された行動へと私たちを駆り立てる。

 たとえば、家に帰ってすぐに手洗い・うがいをするのが習慣になっていれば、玄関を入ると自動的に「手洗い・うがい」の神経が作動し、いちいち考える必要はない。習慣として定着していくにつれ、その行動と結びついた神経経路はどんどん太く強くなっていく。つまり、何度も同じ行動を繰り返すことで専用の神経経路をつくり、それを強化していくことができるのだ。

 だが、同時に私たち人間の脳は、ゆっくりとした変化だけを受け入れることで安定を保つようにできているらしい。また、納得できる見返りを与えられない限り、変化に抵抗しようとする。新しく良い習慣を身につけようとする行為は、これまでの習慣を続けさせようとする脳の抵抗との戦いなのである。

 だからこそ、抵抗の少ない「小さな習慣」であれば、軽い一押しで、最も難しい最初のアクションを起こすことができるし、脳のなかで「新しい行動」と「いつもの行動」がせめぎ合う間も、行動を継続させることができる。