帰宅困難者、通称帰宅難民――。東日本大震災が発生した3月11日、この言葉がにわかに現実のものとなった。

 だが、近い将来首都直下型地震が発生したら、混乱は到底3.11の比ではない。鉄道の復旧には相当の時間を要することを覚悟しておかねばならない。そのとき、冷静に行動するためには、日頃から十分な準備が不可欠である。

首都直下型地震で3人に2人が帰宅困難に
もし帰路で道路の寸断や火災に直面したら

 首都圏が直下型地震に襲われると仮定した場合、東京23区内には888万人の人がおり、うち4割の346万人が帰宅困難に陥ると東京都は予測している。千代田区で発生する帰宅困難者は57万人、帰宅困難者の発生比率(地震発生時に千代田区にいた人のうち帰宅困難となる人の割合)は66%。実に、3人に2人が家に帰ることができなくなる(図1参照)。

 自宅までの距離が10kmを超えると、1kmごとに10%ずつ帰宅困難者が増えていき、20km以上では全員が帰宅困難になると言われる。千代田区から直線距離が10km以内と言えばおおむね環七の内側、15㎞で23区内のエリアとなるから、これは相当な距離だ。自宅まで20Km以上の人が実際に歩かねばならない距離は、もっと長くなる。

 都市災害に詳しい東京大学の廣井悠助教、東洋大学の関谷直也准教授らが、首都圏に住む人を対象に行なった調査によると、東日本大震災の発生時に知りたかったことは「家族の安否や居どころ」が67%、帰宅の可否を判断するために使おうとした手段は「携帯電話」が82%、特に困ったのは「携帯電話が使えなかったこと」が71%だったという。

 調査の結果からも、携帯電話が通じない中、家族のことが心配で歩き出した人が多かったことがわかる。しかし、首都直下型地震が起きたら、帰路で火災が発生したり、道路や橋が通行不能になるかも知れない。災害用伝言ダイヤルの利用など、非常時の連絡方法を家族と確認し合っておくことが、帰宅対策の第一歩だ。