したがって、「妊産婦死亡率」や「周産期死亡率」が低いからという理由だけで、日本で産科医療を受ける際には、何も考えずに任せておけばよい、とは言い切れないのです。

 そもそも、日本の産科医療の質や安全性が全体として高まっているとしても、医療機関ごとの質の格差が広がっているかどうかは、全体の死亡率からは知りようがありません。

 防ぐことができるはずの事故を防止するためには、医療機関ごとの質の格差の是正、特に「底上げ」がなされているかどうかが大切なのです。

欧米の無痛分娩と
根本的に違うこと

 実は、上記の京都府の無痛分娩の事故で、母子ともに意識不明で寝たきりという重い障害を負ったロシア人女性の母親は、62歳のロシアの医師でした。彼女は2017年6月12日に、報道各社に手記を公表しました。その内容の概略は以下のようなものです。

 『(略)私は、妊娠している女性たちに、ただ1人の産婦人科医しか働いていないような個人医院で出産することの危険性を警告したいのです。妊娠中に個人の医院で経過観察を受けることは、便利ですし、静かで、心地よいことです。ただ、出産だけは個人医院ではしないでください! 出産は複数の医師がいる体制のあるところでして下さい。救急時の対応医や新生児科の医師がいて、さらに複数の産婦人科医がいるところで出産すべきです。

 (略)次いで、私が重要と考えていて理解できないことがあります。厚生労働省の担当課が、なぜ1人の産婦人科医しか働いていない産婦人科医院で出産することを許可しているのか、ということです。(略)皮膚科医、歯科医、眼科医、内科医、小児科医には個人医院で1人で開業する許可を与えることはいいでしょう。しかし、外科医と手術をする産婦人科医に関しては、1人で開業する許可を与えることは許せません。(略)

 私はロシアで医師として30年以上仕事をしてきました。わが国ではこのようなことは見過ごされる(許される)ことではありません。私たちのところには妊婦のための経過観察をする個人の医院(外来のみ)は多くあります、しかし、出産は、医師のスタッフがそろい、機器も薬剤も十分に設備された産科病院でのみ可能です。

 (略)1人だけの産科医しかいない医院ではお産ができる許可を与えないようにしてください。自分たちの娘や奥さんを悲しい目にあわせないようにしてください。家族にとって子どもが生まれるという最高に幸せな日が悲劇に変わるようなことはしないでください。(略)』(太字部分は編集部による)