ブランチには
「心に働きかける力」がある

 この会話には、「あれをしてはいけない」「これはルールだ」という発言は1つもありません。子どもにも十分に、考える力、ルールを理解する力、自分の行動を判断する力はあるのです。

 しかし、知らないことはあるから、それだけは補足してあげればよいのです。

 たとえば、「警察官がたくさんいる場所が、危ない可能性が高い」ということは、聞けば常識だと思うかもしれませんが、子どもが知っているとは限りません。だから、そのことを伝えてあげるのです。

 もう1つ、親が手伝えることは、出来事マップを一緒に作りながら、ふだん考えている範囲のもう一歩先を考えてもらうことです。

 悪い人がいて騙される可能性があることは、すぐにわかります。「そうしたら、どんなことが起こるのかな?」という質問が、子どもが一歩先まで考える力を育むのです。

 じつはユウキも、自分も周りの人も悲しい思いをするし、それは自分にも5人組の仲間にも起こってほしくないということに、この質問をされて初めて気づいたのです。

 ブランチは、因果関係を使ってものごとのつながりを把握するという論理的なツールでありながら、そこから得られる学びは、「友だちや親や周りの人が悲しい思いをする」「自分が悲しい思いをする」「誰も悲しい思いをしたくないし、させたくもない」というように、心に働きかけるものです。

 だからこそ、一度理解すれば行動が変わります。「何度言ったらわかるの!」と怒鳴る必要もなくなるのです。

 ユウキもこれ以来、校長室の「叱られソファ」に呼ばれることはなくなりました。

 ユウキと一緒にこの分析をしているうちに、私は小学生時代を思いだしました。

 夏休み前に学校で配られる手紙には、「盛り場やゲームセンターに行かないこと」と書かれていました。しかし、なぜ行ってはいけないのかが書かれていないのです。行ったらどんな悪いことがあるのかわからず、むしろ行ったときの興奮、高揚感、未知のことに挑戦した達成感…こんな気持ちばかりが湧いてきます。

 決まりだからやらない、ルールだから守る。それだけでは納得できないことを、ブランチは気づかせてくれます。

(毎週火曜日・金曜日に公開予定)