ダイヤモンド社刊
1890円(税込)

「能力がなくては優れた仕事はありえず、自信もありえず、人としての成長もありえない」(『プロフェッショナルの条件』)

 ドラッカー自身、かかりつけの腕のよい歯科医に聞いたことがあるという。「あなたは、何によって憶えられたいか」。

「ドラッカーさん、あなたが変な亡くなり方をする。すると司法解剖だ。そのとき解剖医が、この人は一流の歯科医にかかっていたといってくれれば、私は満足だ」

 能力は十分にある。研鑽にも励んできた。自信は満々である。すでに、魅力ある人物である。

 この歯科医は、ドラッカーの唐突な問いにちょっと反発したのかもしれない。しかも、堂々たる答えである。だから、ドラッカーはこういう。「この人と、食べていくだけの仕事しかしていない歯科医との差の何と大きなことか」。

 ドラッカーは、ペーパーワークと医師の要求に追われている看護師は、大勢の患者を見ながらこう言わなければならないという。

「あの患者さんたちが、私たちの仕事だ。他のことは邪魔でしかない。この本来の仕事に集中するには、どうしたらよいか。仕事のやり方に問題があるかもしれない。もっとよい看護ができるよう、仕事のやり方を変えられないか」

 これが、本当の継続学習である。自分たちの能力を自分たちで開発している。こういう看護師が大勢いる病院のことは誰も忘れない。患者も忘れないし、医師も忘れない。不思議なことに、患者の回復も早い。もちろん自信もあれば、全員が輝いてもいる。こうして、すべてが好循環を始める。

 ドラッカーは、自らを、成果を上げる存在にできるのは、自らだけだという。成功の鍵は責任にある。自らに責任を持たせることにある。責任ある存在になるということは、自らの総力を発揮する決意をすることである。

 仕事が人間形成につながることを、これほどはっきり言ってくれるとは、さすがドラッカーである。

「成長するということは、能力を修得するだけでなく、人間として大きくなることである。責任に重点を置くことによって、より大きな自分を見るようになる。うぬぼれやプライドではない。誇りと自信である。一度身につけてしまえば失うことのない何かである」(『プロフェッショナルの条件』)