菅直人首相が退陣の条件とした「第2次補正予算」「赤字国債発行法案」「再生エネルギー特別措置法案」が今国会で成立する見通しとなった。6月の退陣表明後、2ヵ月以上も驚異的な粘り腰で政権担当を続けた菅首相は厳しく批判されている。だが菅首相が、3法案成立に加えて、震災前から最も意欲的に取り組んだ「税と社会保障の一体改革」の正式決定という退陣の「花道」を、自ら作ったのも事実だ。菅首相は、俗に弱いとされがちな日本の首相が、実は強力な権限を持つことを示したのではないか。

首相が持つ強力な権限とは

 首相が持つ「解散権」「人事権」「公認権」「資金配分権」の権限は、90年代の「政治改革」で強化された。まず、「小選挙区制」の導入で、「解散権」の威力が増大した。小選挙区制は大政党に有利であり、中小政党は選挙のたびに議席を減らし、二大政党化が進んだ。一方、2005年総選挙の自民党や2009年総選挙の民主党の地滑り的勝利など、二大政党の候補者でさえ落選のリスクが大きくなった。すべての政治家が総選挙を恐れるようになった結果、首相が「解散権」を有効に、政局の駆け引きに使えるようになった。

 また、小選挙区制下では当選者が各選挙区1人になるため、無所属での当選は極めて困難になった。党の公認を得ることが決定的に重要となり、中選挙区制下で軽視された首相の「人事権」「公認権」が強まった。更に、「政治資金制度改革」で政治家個人や派閥が政治資金を集めることは困難となり、政党に資金が集中したことも、首相の権限を強めた(第1回を参照のこと)。

 これらの権限は、解散権を除けば首相が任命する党幹事長・官房長官が行使する場合が多い。従って、党幹事長・官房長官人事は首相にとって権力掌握のために極めて重要となった。

政権交代前から鳩山政権期:
小沢一郎の強力な権限行使

 二大政党制下では、野党であっても党執行部に権限が集中していくと考える。民主党では、政権交代前からが小沢一郎氏が党代表として、強力な権限を行使していた。特に、新人候補を大量公認した反面、岩國哲人元副代表ら現職候補や当時落選中だった海江田万里氏を「選挙区での活動量が少ない」として党の一次公認から外すなど、「公認権」「資金配分権」を存分に用いて党内権力を掌握した(前連載第38回を参照のこと)。