リーダーとマネジャーの役割の違いについて論じた論文は多い。古くはHBR1977年5-6月号で発表されたアブラハム・ザレズニックの論文は、心理学の知見を基に目標や仕事観、育成方法などにおける両者の違いを明らかにし、その後のリーダーシップ開発に大きな影響を与えた。
本稿は、リーダーシップ論のグールーである筆者が90年に発表したものである。リーダーシップとマネジメントは複雑なビジネス環境のなかではどちらも欠かせないものであり、補完関係にあるとする。複雑な状況にうまく対処することがマネジメントの役割であるのに対し、リーダーシップの役割は変化にうまく対処することであるという。新しい環境に適応し、競争を勝ち抜くために大きな変革が必要になれば、それだけリーダーシップが求められるようになる。
さらに、リーダーシップとマネジメントの役割を「方向性の設定」と「計画と予算の策定」、「人心の統合」と「組織編成と人員配置」、「動機づけ」と「統制と問題解決」と対比させて論じ、最後にリーダー育成の企業文化を醸成することの重要性を指摘している。なお、本稿の翻訳の初出は1990年9月号だが、新訳を施し、再掲載した。
リーダーシップとマネジメントは補完関係にある
John P. Kotter
ハーバード・ビジネス・スクール松下幸之助記念講座名誉教授。リーダーシップ論を担当。1981年、当時としては史上最年少の34歳でハーバード大学の正教授に就任。おもな著書にJohn P. Kotter on What Leaders Really Do, Harvard Business School Press, 1999.(邦訳『リーダーシップ論』ダイヤモンド社)、Matsushita Leadership: Lessons from the 20th Century’s Most Remarkable Entrepreneur, Free Press, 1997.(邦訳『幸之助論』ダイヤモンド社)などがある。また変革のリーダーシップの実現をサポートするコッター・インターナショナルを興した。
「リーダーシップ」は、「マネジメント」とは別物である。しかしその理由は、大方の人々が考えているものではない。」
リーダーシップとは、神秘的なものでも謎でもない。リーダーシップには、カリスマ性など個人の資質は関係ない。限られた選ばれし者だけの分野でもない。また、リーダーシップは必ずしもマネジメントより重要であったり、マネジメントの代わりになったりするものでもない。
むしろ、リーダーシップとマネジメントは、相異なるも補完し合う行動体系である。どちらの活動も独自の機能と特徴を合わせ持っている。複雑さを増し、変化し続ける環境で成功するには、どちらも必要である。
今日のアメリカ企業のほとんどが、行きすぎたマネジメントとリーダーシップの機能不全に陥っており、リーダーシップを発揮する能力の開発が求められている。
成功している企業は、リーダーが現れるのを待ってはいない。そのような企業は、リーダーの資質を有する人材を積極的に探し出し、その資質を伸ばすように設計されたキャリアを経験させている。実際、慎重に選抜・育成し、その意欲を引き出すことで、多くの人材が組織内部で重要な役割を果たすようになる。