これらの行動について詳細に検証すれば、リーダーに必要なスキルがはっきりするだろう。
「方向性の設定」vs.「計画と予算の策定」
変革を起こすことがリーダーシップの役割である以上、変革の方向性を決めるのは、リーダーシップの基本といえる。方向性の設定と計画(特に長期計画)の立案は混同されがちだが、両者はけっして同じではない。
計画の立案は、本質的に演繹的なマネジメント・プロセスであり、変革ではなく、何らかの結果を秩序立って生み出すように設計される。これに対して方向性の設定とは、どちらかというと帰納的である。リーダーはさまざまなデータを収集して、パターンはもとより、関係性や関連性などを見出し、物事を説明しようとする。
さらに言えば、方向性の設定──リーダーシップの1側面である──で、計画ではなく、ビジョンと戦略が生み出される。こうして生まれたビジョンと戦略は、事業や技術、企業文化について、長期的にどうあるべきかを描き出すと同時に、この目標の達成に向けた現実的な道筋を明示している(コラム「方向性の設定:アメリカン・エキスプレスのルー・ガースナー」を参照)。
ビジョンについて論議すると、その多くが謎めいたものになりがちである。つまり、ビジョンとは神秘的なもので、普通の人間には、たとえ優秀でも、ビジョンなど生み出せるものではないという結論になる。
しかし、事業の方向性を適切に指し示すのは魔術ではない。情報の収集とその分析は、つらく、時として心身共にへとへとになるプロセスである。このようなビジョンを明確に示せるのは、魔術師ではなく、リスクに果敢に挑む、幅の広い戦略思考の持ち主なのだ。
ビジョンも戦略も、人々をあっと言わせるような斬新なものである必要はない。実際、最高のビジョンや戦略のなかには、斬新な要素がいっさいないものもある。有効な事業ビジョンは、きまってありふれたもので、有名なアイデアばかりで成り立っているものである。アイデアの組み合わせやまとめ方が目新しいケースもあるが、そういった要素すらない場合もある。