今年1月に承認された抗凝固薬のダビガトラン(商品名プラザキサ)。「血液サラサラ」状態を保ち、血液の塊が引き起こす脳卒中を予防する。一般にはなじみが薄いのでピンとこないかもしれないが、この領域では半世紀ぶりの新薬。いろいろな意味で「待望の」という枕詞がつく薬なのだ。

 血液は外傷や血管内のキズをきっかけに固まり始める。出血死や血管の破綻を防ぐ重要な生体反応だ。とはいえ血液の塊(血栓)は生体にとって一種の異物。そのままでは不都合が起こる。このため、時間の経過とともに今度は血栓を溶かす仕組みが起動する。異物は無事に消失するワケ。固める「凝固系」と溶かす「線溶系」、健康な血流はこの二つの絶妙なバランスの上に成り立っている。

 ところが、昨今は運動不足に睡眠不足、過食に喫煙、大量飲酒と血液ドロドロ傾向を助長する生活習慣ばかり。しかも、年齢とともに心臓のポンプ機能に異常が生じ、身体のあちこちで血液が澱む。これに高血圧や脂質異常症、糖尿病が重なると、血管の内側がボロボロになり俄然「凝固系」が活性化される。こうなれば、いつどこで血栓がらみの疾患──脳卒中や心筋梗塞が発症してもおかしくはない。「抗凝固薬」はこのやっかいな凝固活性を食い止める薬。これまで唯一の薬だったワルファリンは、個々人の適量を見つけるのが難しく医療者泣かせの薬として知られてきた。効き過ぎると「逆に脳出血のリスクが高まる」ため「副作用管理の面倒から、処方に消極的な医師も少なくなかった」(循環器専門医)のである。