同じ分野に多数の企業がひしめく日本の産業界。産業集約は大きな課題として指摘されてきたが、その動きは遅々としたものである。日本企業は「雇用」を口実に、課題解決を先送りしてきたのではないだろうか。コマツ取締役会長・坂根正弘が提言する。

大震災であらためて感じた日本の現場の底力

 東日本大震災は、日本企業の強さと弱さを浮かび上がらせたのではないだろうか。日本企業の強さは現場の底力である。コマツの工場も被害を受けたが、わずか2週間足らずで復旧にこぎつけた。進むべき方向が明確に示された時、日本人はすさまじい力を発揮する。

坂根正弘
(c) Junichi Waida

 サプライチェーンの問題点も指摘されたが、結果としては日本の部品産業の強さを印象づけた。部品レベルでの優位性をいかに維持、強化するかは、日本経済にとってきわめて重要な課題である。

 優れた技術を持っていたとしても、将来にわたって世界市場で競えるほどの規模を持つ企業は少ない。ある程度まで産業集約を進める必要があるだろう。どの業界も最終商品メーカーの数が多いことは、その業界だけでなく部品メーカーの低収益の原因にもつながっている。

 「顧客に言われたとおりのものをつくる」状態からの脱却もメーカーにとって切実な課題だ。顧客に対して「これを使ってください。他の選択肢はありません」と言えるような企業になれるかどうか。この戦略はトップの強力なリーダーシップが必要となる。熾烈化する競争を勝ち抜くために、経営者には事業の統廃合も含めた大胆な決断が求められる。

 2006年、私はコマツの社長としてシリコンウエハー製造のコマツ電子金属(現SUMCO TECHXIV)を売却した。当時は同社に大きな投資をするたびに、コマツの株主や他の事業部門の人たちからは「なぜ、こんな大金が必要なのか」と言われ、しかもその投資はいつも後追いだった。業界順位も低く、社員がもっと幸せになれる道があるのではないかと私は考えた。