むしろ日本企業こそ、ぜひやるべき

 結果として、半年足らずで、申し込みのサービス画面は無事リリースされた。社内でのスプリントへの理解は広がり、心理的なハードルはぐっと下がったという。いまでは「この課題なら2日間でやろう」などと、現場ではスプリントの応用に意欲的な空気がでてきている。

 GH氏は、日本企業における、こうしたスプリントの「つまみ食い」を勧める。

「確立されたガバナンスやプロセスをごっそり変えてしまうのは不可能です。だからこそ、スプリントの『つまみ食い』は、それがかなり劣化した形であったとしても、スモールスタートとして大事ではないかと思っています。

 同じ課題に違う手法で取り掛かるという意味でも、議論が活性化し、思ってもみなかった刺激を受けます。それだけでも大きな前進なのではないでしょうか」
 
 またスプリントは、日本のビジネスの弱さを補えるチャンスだと捉えている。

「日本の企業が、基盤となる技術は優れていても、マーケットに出ていくところで苦戦しがちなのは、お客さまからのフィードバックが足りなかったり、それを部門間で連携して活用できていないからだと思います。スプリントを使ったお客さま体験を通じて、最小限のリスクでお客さまからの生のフィードバックをもっと多く増やしていき、会社全体がそれにチームとして反応ができれば、日本からもイノベーティブなサービスやプロダクトがさらに多く生まれてくるような気がします」

 スプリントは決して、「IT」とか「スタートアップ」のタグがついた人たちだけに限定されたメソッドではない。たしかにベンチャー企業のような身軽さや時間感覚のほうが理想形には近づきやすいのかもしれないが、大手企業や伝統のある企業でも、「つまみ食い」から始めることで、スプリントは十分にチェンジメーカーになれるのである。