上海で官民合作の
公共自転車は失敗

 ところが、万博間近の上海で、再びこの“見捨てられた乗り物”に目が向けられた。「エコロジー」という観点から再評価され、2008年、上海と杭州の限定されたエリアで「公共自転車プロジェクト」が動き出したのである。

 “急速発展”に貪欲な中国政府は、欧州の交通革新と言われた「パークアンドライド」(P+R)という試みを取り入れ、年々深刻化する交通渋滞を解消する実験に乗り出す。上海では、東西に走る地下鉄2号線の「張江高科駅」、南北に走る1号線の「シン庄駅」(※シンは草かんむりに「辛」)の、二つの終点駅で取り組みが始まった。

 2009年、筆者は上海市閔行区の「シン庄駅」を訪れ、稼働を始めたばかりの公共自転車の実態を見学したが、駅前に整列する手つかずのオレンジ色の公共自転車から「市民の関心の高さ」はうかがえず、むしろ市民はそれを遠巻きに観察するかのようだった。

 当時、上海では「官民合作モデル」として、閔行区政府の取り組みを上海の老舗自転車メーカーの「上海永久自転車」が請け負った。初期の2009年は「模様眺め」だったようだが、2012年には2万6000万台の自転車稼働数が見込まれ、閔行区も約2600万元(約3.4億円、当時1元=約13円)の年間予算を投入した。

 中国の民間環境組織・自然之友が発表した「都市公共自転車調査報告」によれば、同区ではカード登録者が利用できるシステムを構築、2011年には23万枚までカード発行枚数が伸びた。ところが、これに対し自転車は1万9000台にとどまってしまった。最大の課題は「供給を上回る莫大な需要」にあった。

 中国の公共経済の専門家の一部は、これを「官民合作モデルの失敗」と結論づけている。失敗の原因は「収益性の低い事業」。「指定スタンドへの返却型」の場合、地価が急上昇する上海で駐輪場用地の仕入れが容易でなく、これを請け負った企業は政府の補助金に頼るほかなかったのだ。

 その後、中国のいくつかの都市でも試みられたが、補助金は不正に不動産投資に転じられ、駐輪場も自転車も放置されるという都市もあったようだ。

“民”が主導する市場で
発展しながら生まれる混乱

 2015年に入ると、公共自転車は新たな局面を迎える。「摩拝自転車」や「ofo自転車」といった民間事業者が中心となって、アプリを使った「乗り捨て」のレンタルサービスを開始したのだ。