チュニジアとエジプトから広がったアラブの民主化運動は、ついにリビアのカダフィ独裁政権を崩壊に導いた。今後は同国の民主化の道筋に注目が集まるが、武装解除、部族間対立、エネルギー資源を巡る欧米諸国の思惑なども重なって、その前途は多難だ。果たして混迷は深まり、引き続き世界に不安を撒き散らすのか。元米国務省高官のダニエル・サーワー ジョンズ・ホプキンス大学教授に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

――9月1日、主要63カ国と国際機関の代表らが一堂に会して、リビア復興に関する支援国会議が開かれたが、これをどう評価するか。

ダニエル・サーワー(Daniel Serwer)
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授。米国務省でボスニア・ヘルツェゴビナへの特別大使、ヨーロッパおよびカナダに関する情報調査ディレクターなどを務めた経験を持つ。専門は、平和と紛争解決、交渉と仲介、国家復興など。ブログはこちら

 概ね評価できる。復興財政支援もようやく動き出す。また、リビア国民評議会(今回の内戦中に反カダフィ勢力によってつくられた暫定政権)の発言も、契約の遵守、報復への対処、18ヶ月後の選挙実施など、要を得たものだった。

 問題は、これらがどう履行されるかだ。支援国会議でも、すでに資源開発に関する契約方法をめぐって意見の対立が見られた。たとえば、フランスは、NATOでの軍事協力を楯に、大きな分け前を要望している。こうした摩擦は今後大きくなる可能性が高い。そうなる前に、国連の安保理で問題をきちんと話し合い、リビア国民が戦略的な復興目標を定め、国際社会がその実現をサポートしていくような道筋を急ぎつける必要があるのではないか。

――カダフィ政権崩壊後のリビアの安定にとって、もっとも大きな障害は何か。

 国のところどころで不安定な情勢がこれからも続くことだ。カダフィの故郷でカダフィ派の多いスルトや南部地域などが心配だ。また、首都トリポリでも水の供給に問題があり、これが続けば社会不安をもたらす可能性が高い。

――国民評議会のメンバーには、旧カダフィ体制派の人間も多い。彼らは信頼に足る存在なのか。

 私自身、国民評議会のメンバー2人に会った。国民評議会が新憲法草案として書き出したものを読んだところでは、非常に信頼できるものだと判断している。

 ただ、国民評議会自体は、政党を組まないと表明している。それでは誰がリビアの将来を率いていくのか。まったく先行きが見えず、予測もしにくい状況だ。