世界各国で自動車産業の最新事情を取材している筆者にとって、ドイツは米国と日本に次いで累積滞在期間が長い国だ。
そのドイツで8月下旬から9月上旬にかけて、マツダ「6(日本名アテンザ)ハッチバック・2.2リッターディーゼル」に試乗した(距離にして1500km)。
さて、ドイツといえば、その自動車技術の優位性を語る上で忘れてはならない存在がある。「ニュルブルクリンク」と「アウトバーン」だ。視点を変えれば、この2つが存在するからこそ、ドイツを中心とした欧州でのエコカーのトレンドは、日米など他の地域とは異質なものになっていると思う。
スポーツカーの聖地「ニュルブルクリンク」でEVカーレース?
まず、日本の自動車関係者やクルマ好きが「ニュル」の略称で呼ぶニュルブルクリンクから見て行こう。ドイツ中央部の東側、古城が多く、ライン川下りでも有名なコブレンツからクルマで1時間弱走ると、人口1000人に満たない小さな村、ニュルブルクに着く。ここにあるのが、かの有名なリンク(周回路/サーキット)、ニュルブルクリンクである。
地元州政府が管理している同リンクのコースレイアウトは、F1レースなどが開催される一般的なサーキットのグランプリコースと、標高差が激しく1周20.8kmにも及ぶノルドシュライフェ(北フルコース)に分かれている。
平日のノルドシュライフェは、日米欧韓などの自動車メーカー、タイヤメーカーなどが共同でテスト走行することが多い。持ち込まれる車両はスポーティタイプが主流だ。それらは各社の地元国のテストコースで基本テストが終了しており、ニュルは各社にとって最後の仕上げの場となる。日系モデルでは、日産自動車の「GT-R」、富士重工業の「スバルWRX STI」、三菱自動車の「ランサーエボリューション」がニュル育ちの御三家として特に有名だ。
また、ノルドシュライフェでは、週末や平日夕方などに一般向けの走行時間帯(1周24ユーロ/約2600円)も設定されている。走行するために誓約書への署名も原則必要なければ、免許書提示の必要もない。ヘルメット着用の義務もない。
参加者は思い思いのクルマでここを走行するが、やはりポルシェ「GT2」やBMW「M3」など生粋のニュル育ちが多いようだ。ただ、そこに二輪車、セミレーシングカー、さらには観光バスまでが同時に走行する。
その結果、過去に多くの事故が発生しており、死亡事故も少なくない。それでもニュルの運営関係者は「走行参加者の自己責任」と主張する。ちなみに、この自己責任という言葉は、ニュルだけでなく、ドイツにいるとよく出くわす言葉だ。ドイツの社会的特徴と言っていいのだろう。
話を戻そう。こうしたニュルでの熟成を経て生まれてくるクルマは、いわゆる「尖った特性」を持つ。“Fun to Drive”という方向性が、欧州で常に尊重される理由の一端がここから見えてくるというものだろう。