理想の女性5つの要素

――高橋さんがインタビューをなさったこともおありなんですか。

 普段からいろんな話を聞いていて、やっぱりいい話がたくさんあるわけです。そういうものは、ちゃんと残しておきたいな、もったいないな、という気持ちは私の中にはありました。

 それで、本にするとかそういうことではなく、一度ちゃんとインタビューをして、テープに残しておきたい、という話を夫人にしたんです。そうすると、引き受けてくださって。

 どんなふうに生まれ、育って、結婚後はどんなことがあって、どう感じて、どう行動したのか。

 何十時間もインタビューしました。そのテープを参考に本にしたい、という出版社からの話もあったんですが、すぐには本にはなりませんでした。それを没後、見直して作り直してできたのが、『難儀もまた楽し』です。この本は夫人の一周忌のときに、おいでいただいた方におみやげとして差し上げています。

――改めてインタビューされて、どうお感じになりましたか。

 やっぱり、いろんな考え方がしっかりしておられましたよね。淡路島から出てこられた女性ですが、立派な見識をお持ちでした。

 それはやっぱり両親の教えであったり、女中奉公に出た船場での教えが本当に素晴らしいものだったのではないかと思います。それ以外に、見識の基盤を作る機会はないわけですから。

 それと、家計を守る立場をとても大事にされていましたね。とにかく家がしっかりしていないといけない、ということです。創業時代、自ら経理を手伝っておられましたから、数字には明るかったですね。

――やっぱり、むめの夫人だったからこそ、経営の神様の成功もあった、と言えるんでしょうか。

 それは間違いないと思います。絶対にそうです。幸之助さんもそれは認めていたと思いますね。実際、プロローグにエピソードを書きましたが、松下電器の50周年記念の式典には夫人も招かれて、7000人を前にして幸之助が「ありがとう」と言っているんですね。

 幸之助さんは、自分の弱点がよくわかっていたのではないかと思います。その弱みをカバーしてくれる存在が、むめの夫人だということも、よくわかっていたんです。

 女性の理想の在り方は、5つあると幸之助は言っています。

①よき妻である
②よき母である
③よき相談相手である
④よき友人である
⑤よき恋人である

 この5つの要素をすべて持ち合わせている女性がいたなら、まさにパーフェクトということになるわけですが、むめの夫人はそれに近かったのではないでしょうか。

 七変化といいますか、五変化といいますか、変幻自在に5つを切り分け、そのときそのときで、なってほしい女性になってくれる。それだけのことをやってくれる女性だったからこそ、幸之助さんも感謝したし、経営者として成功できたのだと思いますね。

『神様の女房』著者インタビュー(前編)<br />最後の執事が語る「幸之助の妻」の素顔
著者:髙橋誠之助(たかはし・せいのすけ)
1940年京都府生まれ。1963年神戸大学経営学部卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック)入社。主に広島営業所などで販売の第一線で活躍。入社7年目、29歳のとき突然に本社勤務の内示があり、「私は忙しい。松下家の家長として十分なことができない。それをきみにやってほしいんや。よろしく頼む」と松下幸之助直々の命を受ける。以来、松下家の執事の職務に就き、20年以上にわたり松下家に関する一切の仕事を担う。幸之助とむめのの臨終にも立ち会い、執事としての役目をまっとうする。その後、幸之助の志を広めるために1995年に設立された財団法人松下社会科学振興財団の支配人となる。2005 年、財団法人松下社会科学振興財団支配人、定年退職。(写真:石郷友仁)

 


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松下幸之助を、陰で支え続けた“もう一人の創業者”、妻・むめの。五里霧中の商品開発、営業の失敗、資金の不足、関東大震災と昭和恐慌、最愛の息子の死、そして戦争と財閥解体…。幾度も襲った逆境を、陰となり日向となり支え、「夫の夢は私の夢」と幸之助の描いた壮大なスケールの夢を二人三脚で追いかけた感動の物語。

 

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