紀伊半島を中心に、100人を超える死者・行方不明者をもたらした台風12号。河川氾濫の恐ろしさが、改めて再認識された。江戸川(上流は利根川)、荒川という大河川に挟まれた江戸川区は、河川災害のリスクが東京で最も憂慮される区だ。

 もし、荒川の堤防が決壊したら……。小説や映画の話ではない。江戸川区の水害対策は、「その時」を想定内としている。

7割が満潮面以下のゼロメートル地帯
堤防決壊で想定される恐怖のシナリオ

 区の7割が満潮面以下のゼロメートル地帯。0mどころではない。すり鉢のような地形をした江戸川区には、満潮面より3.5mも低い所がある。江戸川・荒川の最下流に位置するため、上流部で堤防が決壊しても水が流れ込んでくるという課題も抱えている。

 区の「洪水ハザードマップ」によると、江戸川、利根川、荒川が氾濫した場合、新中川以西の大部分が2m~5mの浸水に見舞われると想定されている。堤防が決壊したら、水はあっという間に襲いかかってくる。区は「スーパー堤防」の整備に力を入れているが、その完成までには莫大な時間がかかる。

 では、どうすればよいのか。高い建物に避難する? いや、一旦浸水すると2週間以上水が引かないケースも想定されるから、それは最悪の事態を避ける当座の対応策にしかならない。しかも江戸川区は、4階以上の建物の割合が23区の20番目と少ない。

 では、区内に106ヵ所指定されている退避施設に避難する? しかし、これらの8割は1階が水につかる可能性があり、使えるスペースは限られる。ライフラインの途絶も心配だ。

 区が勧める「ベストアンサー」は、高台に指定されている地域防災拠点に避難すること。ただし、その場所は3ヵ所しかなく、うち1ヵ所は南北に長い江戸川区の最南端。2ヵ所は荒川と江戸川の対岸で、氾濫する恐れのある川を越えて行かねばならない。