消費者の潜在的な欲求、すなわち「隠れたニーズ」を引き出し、それを具現化するデザイン――。モノが溢れ、常にイノベーションが求められる現代社会において、こうした能力は極めて重要だ。しかし、それは記憶偏重の教育を受けてきた多くの日本人にとって非常に難しい課題といえる。では、どのようにしてそうした力を身につければよいのか。そのヒントを与えてくれるのが、アップルやグーグルを育んだシリコンバレーの中心にあるスタンフォード大学の学科横断型プログラム、デザインスクール(Dスクール)だ。

Dスクールは、様々な分野から学生や教職員が集まり、デザイン思考を学びながらイノベーション力を鍛えるプログラムで、次世代の教育研究の枠組みとして世界中、各方面から注目を浴びている。とはいうものの残念ながら、日本人でDスクールを受講している人は少なく、その実態は日本でもあまり知られていないのが現状だろう。

しかし、この連載のナビゲーターであるネットイヤーグループ石黒不二代社長の長男・功太郎さんがDスクールを受講したばかりということを聞き及び、帰国に際して、インタビューの機会を得ることができた。そこで今回は、特別編として連載第3回、第4回に登場していただいたインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)設立準備財団・小林りん代表理事をナビゲーターに、スタンフォード大学3年を終えた功太郎さんにDスクールの実態を伺う。さらに石黒親子との鼎談で、海外教育の魅力を紹介する。

インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)設立準備財団・小林りん代表理事

機械工学専攻からロースクール生まで様々!
学部を問わず学ぶ「デザインプロセス」

小林 功太郎さんは、スタンフォード大学で「Dスクール」というデザイン思考によってイノベーション力を鍛える学科横断型の授業を受けられたそうですね。私が代表理事を務め、2013年、軽井沢に開校するインターナショナルスクールでも、Dスクールのようなプログラムの実施を考えていますが、実際の授業はどんなものか教えていただけませんか。

功太郎 Dスクールにも様々なプログラムがあります。プログラムの数は、およそ20クラスくらいでしょうか?(参照:http://dschool.stanford.edu/classes/) 「D.MEDIA: DESIGNING MEDIA THAT MATTERS」「STORYVIZ: STORYTELLING AND VISUAL COMMUNICATION SALON」などメディアデザインやコミュニケーションデザインなど一般的なデザイン力を習得するものから、「D-LAB: DESIGN FOR SERVICE INNOVATION」という新しい組織やプロセスをデザインするものなど、デザインの概念をダイナミックにとらえた授業まで様々です。

(左)ネットイヤーグループ石黒不二代社長 (右)石黒功太郎さん。

 私が受けたのは「Visual Thinking」という授業です。あるタスクを与えられ、それを手助けしてくれるツールを考え、そのアイデアをデザインして、試行錯誤を繰り返しながら実際に形にするというプロセスを学びます。

 1回目のプロジェクトでは、3Dのジグソーパズルの制作をしました。3面のピースを実際に作成し、その5つを組み合わせて、ひとつの形にしますが、パズルと言っても5つだけですから、大変簡単です。これは、グループのチームワーク向上を図るための予行演習のようなものですね。

 次のプロジェクトでは、1回目よりも高度な「地震の被害を受けた日本人を救出せよ」というテーマに取り組みました。もちろん救出といってもそれはあくまでもイメージで、実際には木の板をつかって“ビル”を建て、コップに見立てた“人”を救出するのがタスクです。また、ビルを建てる地域は放射能に汚染されているという設定のため、離れた場所から建設しなければならないという制約がありました。そこで、重要になるのが遠隔操作する道具ですが、材料として鉄類や電気、水を使ってはならず、ダンボールなど簡単に調達できるものだけでしたから、とても試行錯誤しましたね。

 また、私が一番難しいプロジェクトだと感じたのは、民主党と共和党が税と借金を互いに相手に向かって投げあうというものです。これは、現在のアメリカの状態を揶揄しているテーマをイメージにしたタスクで、実際には民主党と共和党に見立てたロボットをつくり、税金や借金をボールに見立てて投げあうという仕掛けです。最初はくっついていた2台のロボットの一方が動き、もう片方にボールを発射する。すると他方は受け取とらざるを得ず、受け取ったらさらに反対に動き最初の一方にボールを投げる。どんどん遠くなるわけです。発射する、受け取ったら動く、という動作を連続させるものでしたから、とても難しかったですね。