沈滞するチームの士気を一気に上げた方法とは?
では、仕事の面白さとは何か?
私が、はじめてそれを知ったのは入社3年目。タイ・ブリヂストンの販売担当になったときのことです。当時、販売現場では、ある問題が持ち上がっていました。事業立ち上げの時期は、取引先がすべて新規顧客であるがゆえによく起こることですが、販売売掛金の回収が滞っていたのです。そこで、上司から、タイ人営業マンをリードしながら不良債権の回収をするように命じられたのです。
私にとっては、はじめての営業経験でしたから、右も左もわからない。とにかく、得意先に足しげく通って支払いを求めるしかありません。しかし、相手も背に腹は変えられませんから、ふにゃふにゃとかわしてくる。新米営業マンには、なかなか手ごわい仕事でした。
しかも、タイは「マイペンライ」の国です。
「マイペンライ」とは、タイ人がよく口にする「大丈夫だ。気にするな」といった意味の言葉。使う場面が面白い。たとえば、飲食店で店員が誤って、スープを私のズボンにこぼしたとします。日本であれば、「大丈夫だ。気にするな」という言葉を使うのは私のはず。しかし、タイでは、こぼした本人が「マイペンライ」と言いながら微笑むのです。当初、これには閉口しましたが、慣れてくるとこれが心地いい。おおらかな気持ちになるからです。これは、タイ文化の愛すべき部分だと思っています。
ところが、不良債権回収でも「マイペンライ」が顔を出すからやりにくい。「マイペンライでは困る。ちゃんと払ってくれ」と何度も通いつめ、「ちゃんと払ってくれなかったら、取引を続けられない」と、若干の脅しをかけながら駆け引きを続ける毎日。想像以上に難航しましたが、コツさえつかめればなんとかなる。しばらく経つと、着実に回収が進むようになりました。
ところが、正直なところ面白い仕事とは言いがたい。
「ちゃんと払ってくれ」と言うだけで、何かを生み出しているわけではないからです。それは、私だけではありませんでした。タイ人営業マンも、どうも士気が上がらない。職場の空気が沈滞気味だったのです。
このままではつまらない。もっと前向きな仕事がしたい……。そう思った私は、「不良債権の回収だけではなく、新規顧客開拓もやらないか?」とメンバーに相談。みんなで「ターゲット顧客リスト」や「攻略作戦」をまとめ上げて、上司に提言。当初、上司は「回収だけでもたいへんなのに、本当にできるのか?」と驚いていましたが、会社にとってもプラスをもたらす提言だから却下する理由もない。「前向きでよろしい」とすぐにOKを出してくれたのです。
これで、私のチームは一気に活気づきました。仕事量が2~3倍に膨れ上がりましたから、めちゃくちゃに忙しくなりましたが、これは全然苦にならない。当時のタイは「車社会」への移行期でしたから、掘れば需要はいくらでもある。ガンガン結果が出るから、面白くてたまらなくなったものです。