「朝ご飯何食べた?」「座右の一冊は?」――そんな質問をユーザー同士で気軽に投げかける『THE INTERVIEWS』(ザ・インタビューズ)というサイトが人気だ。
このサービスは、雑誌のインタビューのように、次々と質問者からの問いに答えていくというもの。質問に答えていくうちに、まるで雑誌記事のような自身のインタビューページができ上がるという仕組みだ。さながら、自分が著名人になったかのような気分を味わうことができる点が、人気の理由の1つである。
「かっちりとしたインタビューが作れるウェブサービスというコンセプトで企画しました」(paperboy&co広報)との言葉通り、多くの“インタビュー記事”では、顔写真や詳細なプロフィールなどを明らかにしているユーザーが多い。回答も真摯なものがほとんどで、自身の“個性”を表現する場として活用しているユーザーが目立つように感じられる。
一昔前まで、ネットは“自分を隠して”利用するものだった。『ザ・インタビューズ』を見ていると、その前提が大きく変化していることがよくわかる。
一方、“自分を隠す”ことで、あえて繋がりを持たないことをコンセプトとしたサービスも誕生している。日々の何気ないつぶやきや愚痴などを書き込んでいく『Arrow』(アロー)は、“見知らぬ誰か”に向けて発信する点が特徴だ。
あまりに意味のないつぶやきの連投は、たとえばTwitterであれば“TL汚し”と呼ばれ、嫌われる傾向にある。それゆえFacebookやTwitterでの投稿には、どうしても精神的な負荷がかかる。実名での発信が主流となってきている昨今では、なおさら気を遣うことも多く、いわゆる“SNS疲れ”の原因ともなる。
『Arrow』の場合、自分の発信したつぶやきは、誰に届くのかわからない。だが、必ず誰かから返信が来るという仕組みだ。リアルな世界や一般的なSNSでの人間関係のしがらみとは無縁なコミュニケーションだからこそ、本音を出せる。それゆえに『Arrow』では、匿名での利用が推奨されている。
「人生はいつもイベントに満ちているわけではありません。ほとんどは『あー、今日も疲れた』といった日々の積み重ねです。ですが“どうでもいいこと”ではあるけれども、“無視して欲しくないこと”が誰にでもあるはずです。それを発信できる場所として、Arrowは生まれました」(株式会社Greenromp『Arrow』開発チーム)
一見すると、既存のSNSに対するアンチテーゼともとれるが、『Arrow』は「全くマーケットが違う」(同)という。
Facebookが“リアルを繋ぐ場”であるとすれば、『Arrow』は“見知らぬ人と触れ合う場”である。だが、匿名主体のコミュニケーションだからといって、従来の掲示板のように“荒れる”といった気配は感じられない。『Arrow』の場合は、むしろ「ありがとう」といった感謝の言葉が多く行き交っている。
つまり『Arrow』は、Facebookのような実名SNSが定着してきたからこそ、生まれたサービスなのである。“アンチ”ではなく“補完”の関係にあると言ったほうが近い。
日常生活において、私たちは「自分という人間をよく知ってもらいたい」と強く願うときもあれば、「日々の愚痴をそっとつぶやきたい」と思うときもある。相矛盾する感情を持つのは、人間の心理としてごく自然なことだ。
『ザ・インタビューズ』と『Arrow』が受け入れられたのは、ネットの世界が、私たちの実社会を反映するものへと成熟しつつあることの証しに思える。両社はその“嚆矢”として、注目に値するサービスと言えるだろう。
(中島 駆/5時から作家塾(R))