オリンパスは10月26日、菊川剛会長兼社長に代わり、高山修一社長の就任を発表した。しかし発表会見に菊川氏の姿はなかった。わずか2週間のあいだに「前社長が出席しない社長交代会見」を2度も開く会社など前代未聞だろう。

 10月14日に解任された前々社長のマイケル・ウッドフォード氏は、過去の巨額企業買収において「不透明なカネの流れがある」と告発している。

 同氏が、英医療機器メーカーの買収とともに問題視するのが、「アルティス」(医療廃棄物処理)、「NEWS CHEF」(食器・調理器販売)、「ヒューマラボ」(健康食品販売)という国内ベンチャー企業3社を、合計734億円で買収した件だ。本業とは縁の薄いこの3社に、なぜこんな巨額資金が投じられたのか。

 発端は2000年1月28日の取締役会で決議されたあるベンチャーファンドへの出資だった。「GC New Vision Ventures,L.P.」というファンドが組成され、300億円が出資されたのだ。カメラや内視鏡といった中核事業に並ぶ新たな事業の創出などを目的に掲げ、菊川氏(当時は常務)を委員長に事業審査委員会が設置された。なお、このファンド運営会社の代表者は、オリンパスの執行役員だった人物(現在は某東証1部上場企業社長)の実弟である。

 そして06年に、同ファンドから件の3社への投資が提案され、事業審査委員会は「持ち分は40%以内とする」ことで投資を承認した。

 ところがその後、「事業投資ファンドに関する会計処理の変更に伴い、ファンドからの期限前解約・償還を行う」(07年9月)、「経営権を取得し迅速な意思決定の下で事業を立ち上げる」(08年3月)などの名目で、株式の追加取得が進む。3社とも筆頭株主は海外ファンドで、買い増すごとに取得単価は上がっていった(表参照)。

 こうして08年4月までに合計734億円が投じられたが、買収が完了した同年度中に、3社合計で556億円を減損処理している。結局、儲かったのは、これらの会社の株を“なぜか”持っていた外国籍のファンド群である。

「事業の将来価値を期待してアーリーステージにある会社を買収した」と高山社長は説明するが、ならばなにも、こんな手垢にまみれた会社を選ぶ理由はないだろう。

 オリンパスは一連の買収の妥当性について、09年5月に外部の専門家からなる第三者委員会に検証を依頼している。その報告書には「子会社化に際しては支配権プレミアムを上乗せすることが通例であること」などを理由に「不合理とはいえない」との判断が示されている。また、オリンパスの執行役員が投資を仲介したファンド代表者の兄であることについても、「本人は弟との取引について『まったく把握する立場にない』と述べているとのことである」という伝聞情報のみを根拠にいっさいの懸念を否定している。

 不信の念は依然消えない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 深澤 献)

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