ベンチャー企業が既存産業に
参入するためには
利益方程式には大きく分けて2つの用途がある。1つ目は「参入条件の検証」である。たとえば、ベンチャー企業が既存産業へ参入しようとするときのことを考えてみよう。こちらが新規参入者である以上、既存企業と同じような費用・満足度で商品・サービスを提供しようとしても勝ち目はない。そこで「同じ満足度で費用を1/2以下にする」か「単価当たりの満足度を2倍以上にする」ような利益方程式をつくらなければならない。
経済情報のユーザベース社は、企業情報検索サービスを大手のブルームバーグ社の3分の1の価格で提供したため、後発にもかかわらず市場で一定のシェアを獲得することができた。ライフネット生命保険は、インターネットというインフラを活用して、従来の保険の2分の1の値段でサービスを提供している。逆に、プライベートジムのライザップ社は、従来のジムと同程度の費用で2倍以上の満足度を得られるようなサービス設計をしている。
利益方程式をつくることで、いまから参入する市場で勝てるか否かを検証することができる。社内外問わず重要であることがわかっていただけたと思う。
利益方程式がないと
短期的な損益に追われる
利益方程式は参入条件の検証以外にも重宝する。用途の2つ目は「仕込みと実入りの言語化」だ。企業は「今日は損をするが、明日は利益を取る」という姿勢がときには求められることになる。将棋で言えば「飛車角を落としてでも王を取る」という攻めの姿勢だ。
このような攻めの投資姿勢を実践するためには、仕込みの時期の苦しさ(飛車角を落とす可能性やダメージの大きさ)を許容できるのか、そして実入りの時期の成果はどの程度か、ということを具体的に考えなければならない。仕込みをへて実入りを迎える場合もあるが、ビジネスによっては仕込みと実入りがほぼ並行して発生する場合もある。
利益方程式なくしては、将来の実入りを計算に入れることができず、短期的な損益に追われることになる。これではチームは早晩に疲弊してしまうだろう。社外への説明も明確にすることができず、資金調達もままならない。このように、仕込みと実入りのバランスを言語化することこそが、利益方程式の本質である。
仕込みと実入りのバランスを言語化するためには、事業の構造を理解しなければならない。そのためには、一歩引いて広い視点から構造をとらえよう。具体的には、短期間の損益計算(P/L)だけではなく、顧客が長期間、ひいては生涯にわたって、どのサービスに対してどの程度の対価を支払っていくのか考慮しなければならない。
また、単一の事業だけでなく、他事業との相乗効果や、他社との連携も視野に入れよう。なぜなら、短期的に損失を計上したとしても、中長期的に売上に貢献する場合もあるし、他事業で主要な顧客になる場合も考えられるからだ。
顧客に対して生涯にわたって提供するサービスの価値の合計を「顧客生涯価値(Life Time Value: LTV)」と呼ぶ。利益方程式の策定にあたっては、短期的な収支のバランスを取って事業が破綻しないようにしつつ、LTVのような長期的な収支を考える必要がある。