起業は「イチかバチかのギャンプル」と思われがちです。最新技術を追い求め、IT分野で財を成す……というイメージを持たれている方も多いのではないでしょか。しかし、3年で8つの事業を立ち上げた山口揚平氏によると、「起業には確立された方法論があり、丁寧に進めていく作業にすぎない」と断言します。どういうことでしょうか。
起業には「定石」がある
2010年、リーマンショックの爪痕が残る東京の中心、六本木ヒルズの51階のヒルズクラブで私は一つの決断をした。シェアーズという企業分析のシステム事業を一部上場の証券会社に売却(M&A)することになったのだ。
29歳で会社を創ってから5年、1つの挑戦が終わった。「事業を創り、売却をする」という一連のプロセスを体験することになった。初めての起業は大変だった。先が見えないなか、日々模索しながら事業とそれを支える組織を創っていく。大変なエネルギーを必要とした。事業売却のあと、全身の力が抜けて実家に帰り、しばしの休養と英国留学を経て、2012年に東京に戻ってきた。
その年のとあるクリスマスパーティーで、私は「シリアル・アントレプレナー(連続起業家)」と呼ばれる人たちと出会った。15歳で会社を創り、売却をして18歳で2度目の起業をしている人、25歳で3社の創業をおこなった人。
今でこそオンライン金融やロケットなどの事業を次々と立ち上げたイーロン・マスクなどをはじめ、メディアでもシリアル・アントレプレナーは有名になっているものの、当時は、起業は一生に一度、1つの会社を創って育てるというのが一般的な認識だった。だが彼らは複数の事業を創業し、成功していた。「そうか、会社は一生でいくつも創っていいのか……」。そう思うと、大きな開放感と未来を感じたのを覚えている。
私はそれからの3年で8つの会社の創業に関わり、みずから出資も行った。事業の内容は、流行りのITスタートアップだけでなく、IoT、ロボティクス、宇宙開発、医療メディア、化粧品、それから劇団経営(法人化)、漢方茶と多岐に渡る。そして今でもアートや医療の分野で様々な事業創造を続けている。分野や業種を問わないのが特徴だ。その理由はおいおい述べていこう。
起業には誤解が多い。たとえば、「まるで清水の舞台から飛び降りるような『イチかバチかの大勝負』である」というものや「才能のあるごく一部の選ばれし者のみがすること」というものなどだ。これらはすべて誤っている。事業の創造は、確立された方法論に則って丁寧にすすめていく一連の作業にすぎない。
そこには、体系的かつ再現可能な定石が存在している。定石に則れば誰でも自分で事業を創ることができると信じている。この連載では私が事業創造に携わる過程で学んだ、事業を創り上げるまでのプロセスをできるだけ具体的・実践的に書いた。