そもそも、今年のノーベル経済学賞を受賞した行動経済学が物語っているように、人間は合理的に行動しない動物。だから、年末に集中的に働くことを選ぶ人ばかりではない。

 だが、このような事態になれば、年末の労働力不足は深刻化するだろう。ただでさえ、労働力の需要が多く逼迫する時期なのに、これは困ったことだ。せめて年収の壁の判定基準を「年間所得が103万円」から「年度(4月から翌年3月まで)の所得が103万円」に変更できないのだろうか。年末の最も忙しい時にパートが集まらない、という事態だけは早急に避けたいと考えるからである。

需給が逼迫すると価格が上がり
供給が減るシステムが問題

 経済的に考えると、需要が増えると価格が上がる、すると供給が増えるので「高い価格、多い取引量」で新しい均衡に達する、というのが普通である。しかし、“年収の壁”があると、需要が増えるほど価格が上がり、それによって供給が減ってしまう。

 これは経済にとって真に好ましくないことだ。というのも、年収の壁さえなければもっと働きたい主婦が、壁のせいで働くのを我慢してしまうため、主婦はアンハッピーであり、企業側も雇いたいのに雇えないのでアンハッピーとなってしまうからである。

 “年収の壁”がない場合と比べると、労働力の奪い合いが激しくなるので時給が高くなり、その分だけ売値に転嫁されるとすれば、消費者物価は上がるかもしれない。しかし、そうした事態は消費者にとってありがたくない話で、喜ぶのは日銀くらいであろう。

 ここで、“年収の壁”にまつわる所得税と社会保険料について簡単に見ていこう。

 そもそも所得の低い人は、所得税を払う必要がない。一定の所得を超えると、所得税の支払い義務が生じるが、当初の支払額はわずかである。所得が増えるにしたがって、所得税額は滑らかに増加していく。そのため、多くの人は支払義務が生じる“境目”を意識する必要がない。

 しかし、社会保険料(年金保健料、健康保険料、および40歳以上であれば介護保険料)は違う。夫がサラリーマンで妻がパートの場合、年収が130万円(場合により106万円。以下同様)を超えなければ社会保険料を一切支払わなくていいが、130万円を超えた途端、社会保険料の支払い義務が生じる。