「入り組んだシステム」と「複雑系」の違い

 「入り組んでいる(コンプリケーティッド)」ことと、本当の意味で「複雑である(コンプレックス)」ことは混同されやすい。マネジャー諸氏は、その違いを知らなければならない。入り組んだ組織のごとく、複雑な組織を管理してしまうと、致命的なミスを犯し、その代償は高くつくことだろう。

 簡単なところから始めて、まず単純系について考えてみよう。単純系は相互作用がほとんどなく、その振る舞いも簡単に予測できる。照明の入と切を考えてみればよい。同じ動作が毎回同じ結果をもたらす。

 入り組んだシステムには、動いている部分が多いが、それらはパターン化された方法で作動する。照明をともす配電網は入り組んだシステムである。つまり、その内部では相互作用が多数生じうるが、通常は何らかのパターンに従っている。

 入り組んだシステムの振る舞いは正確に予測できる。たとえば、民間航空機を飛ばすには、入り組んではいても予測可能なステップが必要になるが、結局のところ、驚くほど安全である。シックス・シグマの導入は入り組んだプロセスであろうが、何をインプットし、どのように実践すれば、何がアウトプットされるのかに関する予測は比較的簡単である。

 かたや複雑系は、パターン化された方法で作動するかもしれないが、そこで生じる相互作用はたえず変化している。環境の複雑性を決定づける要因は、次の3つである。

(1)多元性(multiplicity):相互作用を起こす可能性がある要素の数を示す。

(2)相互依存性(interdependence):それらの要素がどれくらい関連しているかを示す。

(3)多様性(diversity):それらの要素の種類がどれくらい幅があるかを示す。

 多元性、相互依存性、多様性が高いほど、複雑性も増す。たとえば、企業の有機的成長(M&Aを利用しない成長)計画が複雑なのは、相互作用する要素、相互依存し合う要素、多種多様な要素が山ほどあるからだ。

 実際のところ、入り組んだシステムと複雑系の大きな違いは、前者の場合、最初の状態がわかれば結果を予測しやすいが、後者の場合、最初の状態が同じでも、システム内の各要素の相互作用に応じて結果が異なる可能性があることだ。

 航空管制は複雑系であり、天候や航空機のダウンタイム(機体の点検や修正作業等に要する時間)などによってたえず変化する。航空管制システムが予測可能なのは、同じ初期状態から同じ結果が得られるからではなく、各構成要素が相互に関連して変化し、常時調整されるように設計されているからである。

 単純系も入り組んだシステムも、構成要素間の関係を特定し、これをモデル化すれば理解できる。その関係は、明確で予測可能な相互作用に還元できる。しかし複雑系は、すべての要素が予測不可能な形で継続的に作用し合っているため、同じように理解することはできない。