事業や組織のマネジメントは、4半世紀前と比べて、格段に難しくなっている。それは、一にも二にも「複雑性」が高まっているからである。にもかかわらず、4半世紀以上前のビジネス書や研修が教えるやり方をいまだ信奉していたり、新しいアプローチに否定的だったりする。

複雑性が高まるとは、想定外の出来事や不測の事態が発生する頻度が高まることだが、これまでのように「だからしようがない」と開き直ったところで、だれも助けてくれないばかりか、いまやこのような不確実性に対処できないリーダーは無能と呼ばれてもしかたがない。なぜなら、100%ではないにしても、複雑性を予測・管理するツールや技術は多数開発されており、単にその勉強を怠っているからである。

本稿では、ビジネス・リーダーのために「複雑系のマネジメント」の基本を教える。

「複雑性」に対処する方法を知っているか

 現在の企業経営は、30年前のそれとは根本的に異なっている。その最大の違いは、対応すべき複雑性のレベルにある──。我々は、そう考えるに至った。

ギョクセ・サルガト
Gokce Sargut
イリノイ州ユニバーシティパークにあるガバナーズ州立大学の助教授。主に、創造性が重視される業界の戦略と組織改革の研究に従事。

リタ・ギュンター・マグレイス
Rita Gunther McGrath
コロンビア・ビジネス・スクール教授。変動の大きい環境下における戦略とイノベーションの研究に従事。

 言うまでもなく、「複雑系」といわれるシステムは昔から存在するものであり、事業には、予測不可能、不意打ち、ハプニングが伴う。そして複雑性は、主に都市のような大規模なシステムで見られるものから、製品、日常業務、組織など、我々が関わるほとんどすべてのものに影響を及ぼしている。

 この複雑性がそこかしこに見られるようになったのは、ここ数十年にわたるIT革命に起因している。かつては個々に独立していたシステムがいまや相互に関連・依存しており、当然のことながらより複雑化している。

 「複雑な(complex)組織」を管理するのは、「入り組んだ(complicated)組織」よりもはるかに難しい。複雑系の場合、予期せぬ形で相互作用するため、何が起こるのかを予測しがたい。また、複雑性の度合いは我々の「認知限界」(cognitive limit)を超えることがあるため、物事の意味を正しく理解するのは一筋縄ではいかない。そして、過去の振る舞いから未来の振る舞いを予測できるとは限らないため、投資するのも悩ましい。異常値の影響力が平均値より大きいことも少なくない(囲み「複雑性によってビジネス生態系が崩壊する」を参照)。

 さらに悪いことに、分析ツールがこれに追いつけないでいる。どのように複雑性に対処すればよいのか、いまではけっこうわかっているが、その知識は、現代のビジネス・リーダーの思考や次代のマネジャーを教えるビジネス・スクールに浸透してはいない。どうすれば、そのような知識に注目を向けさせられるだろうか。

 複雑性とは何か、どのような問題が持ち上がってくるのか、これらの問題にいかに対処すればよいのか、つぶさに見ていこう。