「JINSには売上ノルマはありません」

吉田 とはいえ、業績も重要ですよね?御社では人事評価はどのように行われているのですか。

田中 基本的には他社と同様で、個人目標を設定し、半期ごとに部門長が本人と面談を行い評価を決め、その後部門間で不平等がないかなど全体で俯瞰して見てから確定しています。

 しかし、当社には売上高のノルマは一切ありません。全社や個店ベースで目標は定めますが、それを店舗毎や店舗で働く従業員ごとにノルマとして課すことはないのです。

 私は会社を設立してから、売上が悪くて人を叱ったことはありません。今やるべきことをやらなかった場合はもちろん叱りますが、売上の数字だけで咎めたことは一度もないのです。

吉田 それはすごいですね。となると、人事評価は全体への貢献や挑戦のしかたなど、定性的な側面でなされるのですか。

田中 その通りです。私は、売上高というのは現象であり、結果にすぎないと思っているのです。もちろん、売上を増やすことを否定しているのではありません。

 たとえば、店舗の従業員がどんなに頑張っても、本部が売れる商品を供給できなければ売上は立ちません。逆に売れる商品が供給されれば、同じ接客でも売れ行きが変わります。つまり売上高とは個人の努力を超えたもので、その多寡で個々人を評価することは、むしろ間違いだと思うのです。

吉田 では、売上はどのような考え方で増やすのですか。

田中 「どれだけクオリティの高い商品・サービスの創造に注力したか」と、その業務にあたった「態度(姿勢)」です。商品開発陣の人事評価のみならず、全社的な課題となっています。

 パソコンやスマートフォンが発する青色光を防ぐメガネのようなイノベーティブな商品の開発に注力する。また、単に売れ筋のデザインだからといって急いで商品を送り出すのではなく、それが100パーセントのクオリティで作れていなければ販売しない。そういう姿勢で、全社の売上目標をクリアできるよう努力するのです。

 いまや、単年度で企業経営を考える時代ではなくなってきたと思うのです。極端な話では100年後、少なくとも20~50年ぐらい先を見越したスパンで考える必要があります。

「100年後につなげていくための今日という1ページは、どのようなものであるべきか」。そういう考え方で1日1日を積み重ねていく。言葉を換えれば、本質的なものを創造し具現化して、お客さまにお届けするということでしょうか。