「100年先を考えて、今日を積み重ねる」
――自分をマネジメントする究極の方法
吉田麻子著、1500円(税別)
ダイヤモンド社刊
吉田 かなり長期的ですが、それがブランドに必要な考え方なのかもしれません。
田中 JINS PC(現JINS SCREEN)が大ヒットした後の2014年、売上高も営業利益も頭打ちとなりました。本来であればテレビCMを大々的に打って挽回を図るのでしょうが、私はそのとき、まず人件費を引き上げ、研修体制を充実し、そして商品のクオリティを上げるための施策に投資することを選択しました。
新卒社員の初任給を20万円から23万5000円に引き上げ、店舗従業員の給料体系もそれに合わせてスライドさせ、結果年間の平均給与を約10%上昇させました。人事や経理から見て、恒常的に大きな負担になるとの懸念もありましたが、それでも断行しました。
というのも、実は以前、売上が伸び悩んだとき、テレビCMを大々的に打って売上高は取り戻したものの、結局はブランド価値を損ねてしまったという苦い経験があるのです。出演タレントのイメージに商品が引っ張られる一方で、急増したお客様に対応できず、満足度を高められないまま帰すことになってしまいました。
そこで、本質的に企業の在り方を考え直したのです。業績は一時的に落ち込むかもしれませんが、給料を引き上げたり研修を充実させたり、開発技術に投資すると、人と組織に着実に地力がつきます。私は数年かかると見ていましたが、2年目には早くもその効果が出始めました。
吉田 私の小説で引用した『経営者の条件』の言葉に、こんな一節があります。
「集中とは、『真に意味あることは何か』『最も重要なことは何か』という観点から時間と仕事について自ら意思決定をする勇気のことである」
田中社長のその意思決定は、まさにドラッカー的だと思いました。
田中 世界の強いブランドを見ていると、単年度の売上高で右往左往していることはありません。ヨーロッパで強いブランドを育てた企業は、特にそうです。直近の利益に振り回されていたら、真に投資家や従業員、取引先に報いる経営はできません。
10年後20年後を考えれば、品質の高い強いブランドづくりに努力を傾けた方が、中長期的なリターンも大きくなり、結果として投資家にも大きな恩返しができるのではないでしょうか。
アイウエア業界は、非常に競争の厳しい世界です。しかし2014年以降、ブランドのビジョンを明確にしたことで、会社の目指す方向に自信が持てました。負ける気がしないのです。働いている人が成果を出したい、活躍したいと思えるためのジェンダーフリーの施策を進めていますし、100%品質の製品を追求し、イノベーティブな新製品を投入する姿勢が整いつつあります。
この業界でジェイアイエヌ以外に、これほど努力を続け、マーケットのことを考え続けている人も組織もない。そういう自信があるのです。
吉田 地道な努力が目に見えるまでには、タイムラグがあります。しかし、ぶれずに取り組んでいれば、必ず成果を生み出します。ドラッカーの教えにも通じるもので、今日はたくさんの勇気をいただいた気がします。お忙しいなかありがとうございました。
(構成/船木春仁)
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